ちく電スーツ

ちく電スーツは、身につけて生活するだけで体の動きから電気をため、周囲にしびれる刺激を与えられるひみつ道具です。のび太の歌を感動的に見せるために使われますが、実態は人間を発電所にしてしまうかなり実用寄りの未来技術です。

道具の目的は一見するといたずら寄りです。周りの人がしびれるため、まるで歌や言葉に感動しているように見せられます。けれど、スーツに電気がたまり続ける仕組みを考えると、力電池ウルトラスーパー電池と並べて語りたくなるエネルギー系の道具でもあります。

歌でしびれさせたいのび太

コミック13巻のちく電スーツでは、ジャイアンが自分の歌で周囲をしびれさせていると信じているところから話が始まります。もちろん実際には、聞かされる側が別の意味でしびれているだけです。そこでのび太は、自分も歌で人をしびれさせたいと考えます。

ドラえもんが出したちく電スーツを着ると、生活の中で自然に電気がたまり、近くの相手にピリピリとした刺激を与えられます。のび太が歌うと友だちが反応するため、外から見ると歌に感動してしびれているように見えるわけです。発想はかなりくだらないのに、道具の仕組みは妙に本格的なんですよね。

のび太の歌声にしびれる友人たち
人前で堂々と歌えるのび太の胆力

ドラえもん13巻「ちく電スーツ」P38:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ジャイアンはのび太の歌がしびれるという評判を聞き、対抗心を燃やします。歌手としての自信がある彼にとって、自分以外の歌で人がしびれるという話は見過ごせません。この流れは、のび太の小さな見栄とジャイアンの大きな自尊心がぶつかる、実にドラえもんらしい展開です。

ただ、ちく電スーツの怖さはここからです。アースをつけ忘れたことで電気がたまり続け、単なるピリピリでは済まない状態になります。感動を演出するための道具が、あっという間に危険な蓄電装置へ変わる。この落差が、ひみつ道具の笑いと怖さを同時に出しています。

電気を放出して電化製品を動かすのび太
便利な人間発電所の完成

ドラえもん13巻「ちく電スーツ」P40:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

生活するだけで発電する未来感

ちく電スーツは、身につけて普通に生活するだけで電気を生みます。歩く、走る、体を動かす、服がこすれる。そうした日常の動きを電力へ変換していると考えると、未来のウェアラブル発電装置としてかなり魅力があります。

のび太は数時間で1万ボルトを超える電気をためていました。電圧だけで電力量を判断することはできませんが、電化製品を動かせるほど放電している描写を見る限り、単なる静電気レベルではありません。家庭の補助電源として使えるなら、かなり実用的です。

1万ボルトを放出するのび太
かなり危険な状態である

ドラえもん13巻「ちく電スーツ」P40:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

この道具が一般化した未来を想像すると、発電の考え方がかなり変わります。通勤や通学、家事、運動のエネルギーを少しずつ回収できれば、家庭の小さな電力需要はかなり補えるはずです。空のエネルギーを利用する雲電池のように、ドラえもんの世界には身近な自然や生活を電力へ変える道具がいくつもあります。

ただし、アースの扱いを間違えると危険です。電気がたまり続けるということは、本人の体が高電圧のかたまりになるということでもあります。のび太のように周囲の人をしびれさせて笑っているうちはまだギャグですが、家電や金属、水場と組み合わせると一気に事故の匂いがします。

ちく電スーツが優れているのは、発電のために特別な行動を求めないところです。専用の装置を回す、燃料を入れる、風や水の流れを待つ、といった準備がありません。着ているだけで生活の動きが少しずつ電気へ変わるなら、使う側の負担はかなり小さくなります。未来の道具らしく、日常の中へ自然に入り込む設計です。

一方で、ためた電気をどこへ逃がすかという問題は常に残ります。アースを忘れただけで危険になるなら、子どもが気軽に着るには安全装置が足りません。ドラえもんが取り出した道具は便利でも、使い方の説明が短く、のび太が肝心な部分を聞き落とすことも多いです。ちく電スーツは、その典型に近い道具です。

ジャイアンの自信と道具の皮肉

この話で印象的なのは、ちく電スーツそのもの以上にジャイアンの自信です。彼は自分の歌が人をしびれさせると本気で思っています。のび太が道具で同じ現象を起こすと、歌の実力ではなく、しびれたという結果だけが勝負の基準になってしまいます。

自分の歌に自信があるジャイアン
根拠のない自信が時には重要かもしれない

ドラえもん13巻「ちく電スーツ」P38:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ちく電スーツは、感動と電気刺激をわざと混同させる道具です。人の心を動かしたわけではないのに、体の反応だけを見れば成功したように見える。このズルさは、相手の反応を操作するおせじ口べにや、周囲の評価を狂わせるひょうろんロボットに近い面があります。

もっとも、のび太が歌で認められたいという気持ち自体は切実です。ジャイアンほど自信満々ではないのび太が、道具の力で一度だけでも人をしびれさせたいと思うのは分かります。だからこそ、道具で得た反応が本物の評価ではないという皮肉が効いてきます。

ジャイアンとの対比もよくできています。ジャイアンは道具を使わなくても、自分の歌に絶対の自信を持っています。のび太は自信がないから道具に頼ります。結果だけ見ると、どちらも周囲をしびれさせているのですが、片方は勘違い、片方は電気刺激です。どちらも本当の感動からは少しずれているところが、笑いの芯になっています。

この話ののび太は、人にほめられたいというより、ジャイアンと同じ土俵に立ちたい気持ちが強いように見えます。いつも歌で周囲を圧倒するジャイアンに対し、自分も一度ぐらい人をしびれさせたい。ちく電スーツはその願いを実現しますが、実現の仕方があまりにも物理的です。心ではなく神経を刺激するところが、道具名の通りに身もふたもありません。

発電道具として見るとかなり優秀

もし、ちく電スーツをいたずらではなく発電用として設計し直すなら、かなり便利な道具になります。蓄電量を表示するメーター、過充電を防ぐ安全装置、家電へ安定して電気を送る端子があれば、日常生活のついでに電気をためられます。人をしびれさせる機能は、むしろ外したほうが使いやすいでしょう。

災害時の非常電源としても相性がよさそうです。停電した家で照明やラジオを動かす、避難所で小型機器を充電する、山や海で最低限の電力を確保する。大きな発電機を運ばなくても、着て動くだけで少しずつ電気をためられるなら、かなり頼もしい道具になります。もちろん、放電の方向を間違えると周囲をしびれさせるため、制御装置は必須です。

発電量を増やすために運動する使い方も考えられます。走る、縄跳びをする、掃除をする、通学する。体を動かすほど電気がたまるなら、健康づくりと節電がつながります。ドラえもんの世界では、こうした未来技術が大げさな研究施設ではなく、子どもの服としてさらっと出てくるのが楽しいところです。

ただ、使う人が子どもであることを考えると、上限に達したら自動で放電する仕組みや、危険な相手へ近づく前に警告する機能がほしいところです。ドラえもんの道具は便利さが先に立つぶん、安全管理が使用者任せになりがちです。ちく電スーツも、アース一本の忘れ物で話が大きく転がるあたりに、その危うさがよく出ています。

ドラえもんの道具には、目的がズレているほど面白いものがあります。ちく電スーツも、本来ならクリーンエネルギーの革命になりそうなのに、作中ではのび太の歌をしびれるものに見せるために使われます。この落差がいいんですよね。大げさな未来技術が、子どもの見栄や対抗心に使われてしまうところに、ドラえもんらしい生活感があります。

電気をためるという一点だけなら、ちく電スーツはかなり夢があります。けれど、感動を電気刺激で代用してしまうところまで含めると、便利さとくだらなさが同居した名道具です。ジャイアンの歌への自信、のび太の対抗心、ドラえもんの未来技術が一つに重なって、短い話ながら妙に味わい深い一本になっています。

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