気になるけど他人に言いにくいことって、ありますよね。そんな時、ほかの人に代わりに言ってもらえることができたら・・・。今回はそんな夢をかなえるひみつ道具「ダイリガム」のお話です。
言いたいことが言えないというのびたの性格
のびたは優しくて気が弱い性格として描かれており、強い相手には言いたいことをなかなか言えない場面が多く登場します。ジャイアンに理不尽なことを言われても反論できず、怒ったおじさんへの謝罪に行かされても一人では心細いという場面が繰り返されます。ダイリガムが解決しようとしているのはまさにそういった「言いたいことがあるのに言えない」というのびたの日常の困りごとです。
野球ボールを取り返せ
のびたとジャイアンとスネ夫が、いつもの空き地で野球をしていると、ジャイアンの打球が大きく伸びて、これまた例によって近所の家の窓ガラスを割ってしまいます。しかしその家に住んでいるのは近所でも有名な怖いおじさん。今の今まで、26回もその家にボールが飛び込んでいますが、一度たりとも戻ってきた事は無いといいます。
理不尽な扱いを受けるかわいそうなのびた ドラえもん6巻「ダイリガム」P78:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ボールを取りに行く係ののびたがドラえもんに相談したところ、取り出したのがダイリガムでした。
ガムをくっつけて言葉をしゃべらせる
ダイリガムを噛んでいる最中に言葉を話し、言い終わったらそのガムのカスを他の誰かにくっつけます。するとそのガムをつけられた人が、自分の代わりに言葉を話してくれるという効果があります。なんだか湿っぽいですが、ガム自体は使い終わればすぐ消えるので問題ありません。
代弁させられる人はたまったものじゃない
言いたい事を他人に言わせてしまうというのはちょっと卑怯なイメージがありますね。悪口だって本人を目の前にして言えてしまうわけですから、喧嘩のタネになりやすい道具とも言えます。事実、そのせいでスネ夫がジャイアンに殴られています。
スネ夫の本音にも聞こえる ドラえもん6巻「ダイリガム」P82:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ガムをくっつける人は全く身に覚えのない事を言わされる訳ですから、たまったものではないでしょう。
自分に対して使うと効果的
コミックののびたのように、自分で言った事を自分に言わせることも可能です。上がり症で緊張すると言いたいことが思うように言えない人にとっては、ダイリガムでセリフを話しておき、自分にくっつける応用テクニックがありますね。
使用者の意思を反映している
ダイリガムは声をレコーダーのように録音し、対象者に無理やり話させる効果があります。100歩ゆずって声の録音はできるにしても、その言葉を届けたい人のところまで足が勝手に動いてしまうのは、ダイリガムのすごいところといえます。ボールが飛び込んだ家に謝りに行きたいと思いながらダイリガムに言葉を吹き込むことで、のびたの意思をダイリガムが感じ取り、ガムをくっつけられた人の体を支配し、足を動かしているのです。一見すると何の変哲もないタダのガムですが、かなり高性能な食べ物であることがわかります。
スネ夫がジャイアンに殴られるオチ
ダイリガムのエピソードで最も笑えるシーンのひとつが、のびたがスネ夫にガムをつけてジャイアンへの不満を代弁させてしまう場面です。スネ夫の口からジャイアンへの悪口が飛び出し、当然ジャイアンに殴られるというオチは、ダイリガムを使いこなせないのびたらしい失敗であり、ガムをつける相手を間違えることの危険性を笑いの中で示しています。スネ夫にしてみれば完全な濡れ衣で、全く身に覚えのないことで殴られるという理不尽な結末は、ダイリガムの悪用リスクを象徴しています。
くれぐれも悪用しないように
ダイリガムの大きなメリットに「使用後は消えてしまう」ことが挙げられます。証拠が残らないのです。これは悪用すれば、やりたい放題できてしまいますよね。大事な交渉の場にダイリガムを使い、自分にとって有利になるように事を運んだり、証言を偽造したり、自分の思い通りに他人を操ることだって可能です。唯一の難点は、代弁させたい相手に確実にダイリガムをくっつけること。対象の人を間違ってしまうと、取り返しのつかないことになるでしょう。手にベタベタくっつくことも考えられるので、日頃からダイリガムを食べ、コントロールを鍛える練習をしておくことをおすすめします。
コミュニケーション・言葉に関わるひみつ道具は他にも登場します。ほん訳コンニャクはどんな言語でも通じるようになる道具で、言葉を伝えるという観点でダイリガムと同じ方向性を持っています。ないしょペンは書いたことが相手だけに見える道具で、こっそりメッセージを届けるという点でダイリガムと似た用途があります。ウソ800も飲んだ後に言ったことと逆のことが起きる道具で、言葉が現実に影響するという点でダイリガムと共通します。おしり印のきびだんごも食べさせると相手の行動が変わる食べ物道具で、ダイリガムと同じく食べ物を通じて他者の行動を変えるという発想で共通します。バイバインは食べ物を無限増殖させる道具ですが、食べ物が予期せぬ効果を引き起こすという点でダイリガムと同じカテゴリーに属します。
代弁を頼む心理
ダイリガムが解決しようとしている問題は、「言いたいことがあるのに言い出せない」という人間の普遍的な悩みです。怖い相手への謝罪、好きな人への告白、理不尽な上司への反論——こういった場面で自分の代わりに誰かに言ってもらえたらという気持ちは、誰でも一度は経験があるはずです。のびたが怖いおじさんへの謝罪を代弁させようとした動機は、まさにこの人間心理をそのまま描いています。
現代ではSNSやメッセージアプリを通じて直接言えないことを文字で伝えるという手段が普及していますが、ダイリガムはさらに一歩進んで「他の人の口から生の声として言わせる」という道具です。証拠が残らないという特性も含め、使い方次第では非常に危険な道具であることは想像に難くありません。
ガムという形状の巧みさ
ダイリガムがガムという形をしているのは、使い方の自然さという点で非常に巧みな設計です。ガムを噛むという行為は日常的で目立たず、会話しながら自然に使える点が優れています。また使い終わったガムのカスを相手にくっつけるという動作も、ポンと触れるだけで済むため、相手に気づかれにくいです。証拠が消えるという設計と合わせて、秘密裏に使うことを想定した道具として完成度が高いと言えます。
一方でガムを噛みながら話すという行儀の悪さは気になります。大事な謝罪の場でガムを噛んでいたら、かえって印象が悪くなりかねません。使い所と使い方のマナーが求められる道具です。
26回もボールが飛び込んでいた事実
エピソードの導入で「その家には26回もボールが飛び込んでいる」という情報が語られますが、これはジャイアンたちがどれだけ無責任に野球をしてきたかを示しています。一度も取り戻せなかったということは、誰も謝りに行けなかったということでもあり、のびたがその役目を押し付けられる構図も含めて、空き地のいつもの力関係が如実に表れています。ダイリガムはそんなのびたの立場を救う道具として登場しており、弱い立場の者が理不尽な状況を切り抜けるためのひみつ道具という側面を持っています。




