遠く離れた相手とも糸のない糸でんわで会話できる「糸なし糸でんわ」。相手に片方の糸でんわを渡しておけば、いつでも無線で通話できるというシンプルな道具です。糸でんわという子供の遊び道具の形式を借りながら、実用的な通信手段として設計されているところにドラえもんらしい遊び心があります。ドラえもんカラー作品集1巻「糸なし糸でんわ」として収録されたこのエピソードは、のび太が先に話を伝えようとして失敗するという、のび太らしいオチが笑えます。
おもしろい話を聞かせて欲しい
とてもおもしろい話があるということで、ぜひしずかちゃんに聞かせたいのび太。
自宅の電話が専有されていたため、ドラえもんは糸なし糸でんわを取り出します。
懐かしの糸電話である ドラえもんカラー1巻「糸なし糸でんわ」P105:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
電話するにはしずかちゃんに片方の糸でんわを渡す必要があります(その時に話せばいいのに…)。
行ったり来たりしているうちにすっかり話を忘れてしまったのび太なのでした。
このオチは、通信手段を用意するために出向くという行為自体が、すでに直接話しかけることと同じであることを示しています。わざわざ糸でんわを届けに行くなら、その時に話せばよかったというシンプルな矛盾が笑いを生んでいます。のび太のうっかりさと、道具を使う意味を考えずに行動してしまう特性がよく表れたエピソードです。
糸なし糸でんわ=普通の電話?
糸がない糸でんわ、つまり遠く離れていてもお互い会話ができる仕組みです。
簡単にいうとコードレス電話と同じですね。
今話せばいいものを・・・ ドラえもんカラー1巻「糸なし糸でんわ」P106:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
呼び出し相手が限定されてしまうのが難点です。
しかし普通の電話とは違って利用料がかかるわけではないですし、災害時など電話が混雑する状況でも間違いなくコンタクトできる点は大きなメリットでしょう。
また通常の電話と違い糸でんわという形式をとっているため、相手に直接渡す必要があるという一手間があります。しかしその分、確実に特定の相手とつながれるという安心感があります。糸でんわというアナログなツールのコンセプトをデジタル的に進化させたという点で、懐かしさと新しさを合わせ持つ道具です。
呼び出し続ける仕掛け
糸なし糸でんわは相手が取るまで呼び出し音が大きくなる仕掛けがあります。
単純に音に気付いていないだけであれば良いのですが、外出していたり静かな場所にいた時に呼び出されてしまってはたまったものじゃありません。
呼び出し音が大きくなる機能は無くても良かったかもしれませんね。
現代のスマートフォンでも着信音の音量を自動で調整する機能がありますが、糸なし糸でんわのそれは最終的にかなり大きな音になるようです。緊急時に確実に連絡を取るための機能と考えれば理にかなっていますが、日常使いには少し迷惑な仕様かもしれません。
大長編で登場する改良版
糸なし糸でんわの改良版が大長編「のび太とアニマル惑星」でも登場します。
アニマル惑星を探検するためドラえもんは探検セットを取り出すのですが、その中に糸なし糸電話型トランシーバーとして登場するのです。
のび太とアニマル惑星P92:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
糸がない基本構造はそのままに、トランシーバーなので電話のように相手を呼び出すのではなく、一方的に会話したり相手の会話を聞くことができます。
大長編の探検シーンで実際に活躍するこの改良版は、糸なし糸でんわの実用性がより高まった形といえます。一方的な通信が可能というトランシーバー機能は、チームでの探検や作戦行動に非常に適しています。タイムシーバーのように時間を超えて通信できる道具と比べると、糸なし糸でんわは同時代の相手とのみ通信できる通常の通信ツールですが、それだけに信頼性が高いといえます。
コミュニケーション系のひみつ道具という観点では、テレビ中継の機械のように映像付きで通信できる道具や、ほん訳コンニャクのように言語の壁を超える道具とも比較できます。糸なし糸でんわは音声通信に特化したシンプルな設計で、余分な機能がない分だけ使いやすさが際立つ道具です。
糸でんわというアナログの魅力
糸でんわは子供の工作や理科の実験として親しまれてきた、非常にシンプルな通信手段です。糸に伝わる振動で音声を届けるという原理は、現代の無線通信とは全く異なるアナログな方法です。糸なし糸でんわは、そのアナログな道具のコンセプトをそのままに、糸という制約だけを取り除いたというユニークな発想の道具です。
名前に「糸でんわ」という懐かしい要素を残しているのは、22世紀の未来技術ながらも昔の子供の遊びへのオマージュが感じられます。見た目や使い方に糸でんわの面影を残しながら、実際の機能は現代の携帯電話をしのぐという対比が、この道具の面白さのひとつです。
しずかちゃんに片方を渡す必要があるという制約は、糸でんわが「糸で繋がっている」という物理的な制約を精神的・システム的な制約として引き継いでいるともいえます。特定の相手との専用ラインというコンセプトが、普通の電話よりも親密なつながりを感じさせます。
通信手段の進化という視点
糸なし糸でんわが登場したドラえもんカラー作品集1巻が描かれた時代と現代を比べると、通信手段は驚くほど進化しています。携帯電話もメールもスマートフォンもなかった時代に、コードレスで遠距離通信できる道具を描いた藤子F不二雄先生の先見性は注目に値します。
現代では当たり前になったスマートフォンによる通話やビデオ通話が、当時は未来のひみつ道具として描かれていたわけです。ドラえもんのひみつ道具の中には、このように現代技術として実現されたものが多くあります。糸なし糸でんわもその一つとして、通信技術の進歩を先取りした道具といえます。
22世紀の未来から持ってきた道具のはずなのに、現代の技術で既に実現されているという状況は、ドラえもんのひみつ道具を改めて見直すきっかけを与えてくれます。現代の通信技術がどれほど発展しているかを、ひみつ道具との比較で実感できます。
専用通信という価値
糸なし糸でんわは特定の相手に渡した片割れとしか通話できないという制約がありますが、この制約が逆に「特別な専用ラインを持つ」という価値を生んでいます。渡した相手とだけ繋がれる専用の通信手段を持つということは、その相手との特別な関係性を象徴するものにもなり得ます。
友人やパートナーとの間で専用の糸でんわを持つというコンセプトは、現代のコミュニケーションアプリの特定の相手との専用チャンネルに通じる発想です。不特定多数と繋がる手段より、特定の一人との専用ラインという親密さがこの道具の隠れた魅力といえるかもしれません。
緊急連絡用として家族や親友に渡しておくという使い方も実用的です。電話回線が混雑する災害時でも確実に繋がれるという特性は、緊急時の安否確認手段として非常に価値があります。普段のコミュニケーション手段としてだけでなく、緊急時のバックアップとしての位置づけも考えられます。シンプルな糸でんわという外見が、現代の複雑なスマートフォンと比べてとっつきやすい面もあります。操作方法が直感的であるため、子供から高齢者まで誰でも使いやすいという点も糸なし糸でんわの強みです。





