『カゼうつし機』は、糸電話のような装置を使って自分の風邪を相手へ移すひみつ道具です。治療するのではなく、症状を別の人へ移動させるという、便利さと迷惑さが同居した道具です。
風邪をうつされる人はたまったものではありませんが、中には風邪をひきたくてたまらない人もいます。
体調不良時の救世主
大切な試験の日、パーティーの日、旅行の日など、大事なイベントの時に風邪をひいて体調不良をなげく人は少なくありません。
そんな時に活躍するのが『カゼうつし機』です。
自分の風邪を他人にうつしてしまうと、自分はケロリと回復し、相手はゾクゾク寒気が走りはじめます。
風邪そのものを退治して治すのではなく、誰かに移動させてしまうという斬新な手法です。
この道具の怖さは、病気をなくしていないところにあります。自分は楽になりますが、症状はどこかへ移っただけです。困りごとを解決したようで、実際には別の人へ押し付けているだけなので、使う相手を選ばないとかなり悪質です。
コップの矢印に従う
カゼうつし機の両端にはコップがあり、コップには矢印の模様が描かれてます。
風邪をひいている人から相手に矢印が向くようコップの取り違いに注意し、咳を吹き込めばオッケーです。
糸電話の要領で扱えるため、使い方はかなり簡単です。だからこそ危険でもあります。医療知識がなくても、相手に症状を移せてしまうため、子どもが軽い気持ちで使えば人間関係を壊しかねません。
また、矢印の向きを間違えると結果が逆になる可能性もあります。風邪を移すつもりが、相手の体調不良を自分へ引き受けることになるなら、道具の向きの確認はかなり重要です。
カゼをひきたい人はいるのか?
風邪をひくと、体の関節が痛くなり、寒気が走り、熱が上がって寝込んでしまいます。
そんな苦しい状況を引き受けてくれる珍しい人なんているのでしょうか?
例えば次のようなケースが考えられます。
好きな看護師さんがいる場合
これはコミックに登場したストーリーです。
好きな看護師さんがいて風邪を口実に病院に行きたいけど、体が頑丈すぎるため風邪を引けない人に喜ばれます。
裸で出歩くのは犯罪です ドラえもん2巻「このかぜうつします」P153:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
予防接種を回避する場合
ワクチン接種をする場合、風邪をひいていると注射ができません。
注射嫌いの人は風邪をひきたくてたまらないでしょう。
学校、会社を休みたい場合
風邪を理由に学校や会社を休みたい人、大勢いるんじゃないでしょうか。
ただし、休むために風邪をもらうという考えは本末転倒です。休みたい気持ちはわかりますが、体調を悪くしてまで予定を避けるなら、その後の生活にも影響が出ます。カゼうつし機はズルに見えて、受け取る側にもかなり負担がある道具です。
カゼうつし機の上手な使い方
カゼの症状を他人に移せることを利用し、賢く上手に使う方法を考えます。
例えば友だちやカップルで旅行中、誰かが風邪を引いてしまったとします。
せっかくの楽しい気分なのに、そんな時にカゼうつし機をつかいましょう。
時間を決め、風邪の症状をかわりばんこに引き受けて、痛みをわかちあう作戦です。
別の例としては、子どもや赤ちゃんが風邪を引いてしまったケース。
苦しむ我が子を見て放っておける親はいません。
子どもの風邪を自分が引き受け、子どもは元気に外で遊んでもらう。こういう使い方もありますね。
このように、本人同士が納得しているなら、カゼうつし機は優しさの道具にもなります。問題は、相手の同意なしに使った場合です。風邪を移す行為は、相手の体を勝手に利用することなので、便利さより先に責任を考える必要があります。
旅行中の交代制のような使い方も、実際にはかなり難しいです。風邪の症状は急に軽くなるとは限りませんし、移した相手が想定より重くなる可能性もあります。楽しい予定を守るために使った道具が、結局全員の体調を悪くする結果になるかもしれません。
親が子どもの風邪を引き受ける使い方も、気持ちとしては理解できます。ただし、親が倒れれば看病する人がいなくなる可能性があります。優しさで使う場合でも、誰がその後を支えるのかまで考える必要があります。
苦しい時こそ人の本性が出る
人はだれでも、自分が苦しい時に素の本性があらわれます。
コミックではのび太の風邪をジャイアンに移して苦しめてやろうと計画していましたが、体調が悪いのび太を見たジャイアンは心からのび太を心配し、薬を紹介しようとしました。
本当は心優しいジャイアン ドラえもん2巻「このかぜうつします」P152:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
いつもはいじめっ子のジャイアンの優しさに触れたのび太は、ジャイアンに風邪をうつすのを止めてしまいました。
大長編では男気あふれるジャイアンとして描かれていますが、コミックでも時々男らしさを発揮しますね。
この話の良さは、カゼうつし機の機能よりも、のび太が使うのをためらう流れにあります。道具があれば仕返しは簡単ですが、相手の優しさを見てしまうと使えなくなる。ひみつ道具が人間関係を試す形になっています。
うつすよりも治療しよう
ドラえもんが持つひみつ道具には『お医者さんカバン』という便利な道具があります。
これを使えば体の悪いところがたちどころに治ってしまうスグレものです。
カゼを誰かに移して迷惑をかけるより、こういうひみつ道具を使って一発で治してしまうのがベストではないでしょうか。
ただ、カゼうつし機には治療道具にはないドラマがあります。誰かに移すか、移さないか。自分だけ楽になるか、相手のことを考えるか。そこでのび太の気持ちが動くため、単なる体調回復の道具ではなく、心の揺れを描くための道具になっています。
病気を道具で扱う怖さ
カゼうつし機はコミカルな道具ですが、病気を誰かへ移すという発想はかなり危険です。風邪だから笑い話になりますが、もっと重い病気だった場合は洒落になりません。症状の移動が可能なら、医療や社会の仕組みそのものが変わってしまいます。
たとえば、重症の人から健康な人へ病気を移すことができるなら、誰が引き受けるのかという問題が出ます。お金で引き受ける人が現れるかもしれませんし、弱い立場の人へ押し付ける悪用も考えられます。便利な医療道具に見えて、人間関係の不公平を大きくする可能性があります。
ドラえもんの道具は、身近な困りごとを一瞬で動かします。カゼうつし機も、風邪を治したいという単純な願いから始まります。しかし、治すのではなく移すという仕組みだから、使う人の性格がそのまま結果に出ます。
ジャイアンの印象が変わる話
この話では、ジャイアンがただの乱暴者ではないことも描かれます。のび太が弱っていると知った時、からかったり殴ったりするのではなく、本気で心配しています。いつもの関係を考えると、この反応はかなり印象的です。
のび太はジャイアンへ風邪を移すつもりでしたが、その優しさを見てやめます。ここでカゼうつし機は、のび太に仕返しの機会を与えるだけでなく、仕返しをやめる理由も作っています。ひみつ道具によって、相手を見る目が変わる話です。
もしジャイアンがいつも通り意地悪だったら、のび太は迷わず風邪を移していたでしょう。そうならなかったことで、道具の効果よりも人間関係の変化が残ります。短い話ながら、ジャイアンの良さが見える回でもあります。




