エスパーぼうし

エスパーぼうしは、頭にかぶって念じることで念力、透視、瞬間移動を使えるようになる超能力補助のひみつ道具です。力をもらうだけではなく、練習しないとうまく扱えないところが、この道具のいちばん面白いところです。

かくし芸から始まる超能力特訓

コミック7巻のエスパーぼうしでは、のび太が友達とのかくし芸大会で手品を披露しようとします。ところが、テレビで見たから簡単そうだったという理由で、ドラえもんの体をノコギリで切ろうとする危険な練習を始めます。タネも仕掛けも用意せずに実験台にされるドラえもんは、かなり気の毒です。

手品の実験台になるドラえもん
恐ろしいことを言うのび太

ドラえもん7巻 エスパーぼうし P124:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

そこでドラえもんが出すのがエスパーぼうしです。見た目はかなり目立つ帽子ですが、念力、透視、瞬間移動という三つの力を引き出せます。見るだけで動かすメガネが視線に力を宿す道具なら、エスパーぼうしは頭全体で念じる力を増幅する道具です。

三つの能力の難しさ

のび太が最初に使いこなすのは念力です。灰皿や座布団のような軽い物を動かすところから始まり、最終的にはジャイアンとスネ夫を浮かせるところまで成長します。一日でこのレベルに届くのは、のび太にしてはかなりがんばっています。

透視は、目に力を入れて集中すると使えるようです。スネ夫の家の中をのぞく場面があり、道具としては便利ですが、使い方によってはかなり危険です。ドラえもんの道具は、少し方向を間違えるとプライバシー侵害へ直行するものが多く、エスパーぼうしも例外ではありません。

スネ夫の家を透視するのび太
犯罪の温床となる

ドラえもん7巻 エスパーぼうし P131:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

そして一番難しいのが瞬間移動です。かくし芸会場へ移動しようとしたのび太は、なぜか服だけを飛ばしてしまいます。失敗としてはひどいのですが、服だけ瞬間移動させるのも能力としては相当すごい。制御が難しいだけで、道具の出力そのものはかなり高いとわかります。

服だけ瞬間移動するエスパーぼうし
これはこれですごい

ドラえもん7巻 エスパーぼうし P138:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

目立つ帽子にも意味がある

エスパーぼうしは、能力のすごさに対して見た目がかなり目立ちます。もっと小型化できそうなのに、あえて大きな帽子の形をしているのは、使っていることが周囲にわかるようにするためかもしれません。透視や瞬間移動のような力をこっそり使えると、悪用の幅が広すぎます。

目立つエスパーぼうし
1日の練習でこのレベルはすごい

ドラえもん7巻 エスパーぼうし P137:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

同じロボット・自動化系の反のうテストロボットは相手の反応を予測する道具ですが、エスパーぼうしは本人の能力を拡張します。ロボット足が体の一部を強化するように、こちらは脳のイメージ力を強化しているとも読めます。訓練が必要な点では、道具というより超能力の補助輪に近いです。

のび太が成長して見える回

この話ののび太は、失敗しながらもかなり努力しています。最初は無茶な手品をやろうとしていたのに、エスパーぼうしを手にしてからは練習を重ね、念力や透視を身につけていきます。勉強の道具のように結果だけを出す道具とは違い、本人の練習が成果に反映されるのがいいところです。

ただし、最後に服だけ飛ばしてしまうあたり、のび太らしい詰めの甘さも残っています。ピーヒョロロープのように楽譜どおり操作する道具より、エスパーぼうしは本人の集中力がものを言います。力を得ることと使いこなすことは別だと、かなりわかりやすく見せてくれる道具です。

超能力を日常へ落とし込む面白さ

超能力という題材は、普通ならもっとシリアスに扱われがちです。けれどもこの話では、かくし芸大会に間に合わせるための特訓として描かれます。念力も透視も瞬間移動も、世界を救う力ではなく、友達の前でちょっとすごいところを見せたいというのび太の欲に使われるのです。

そこが藤子作品らしいところです。大きなSF的アイデアを、学校や家の中の小さな見栄や失敗に接続します。エスパーぼうしも、能力だけ見れば大長編級のポテンシャルがありますが、実際には服だけ飛んでしまうオチで終わります。すごい力を日常のドタバタに落とすバランスが絶妙です。

練習型のひみつ道具という珍しさ

エスパーぼうしは、かぶった瞬間に何でもできる道具ではありません。念力は比較的早く形になりますが、瞬間移動は最後まで失敗します。ここが、単純な万能アイテムと違うところです。ドラえもんの道具には、使っただけで願いがかなうものも多いですが、エスパーぼうしは本人の集中力やイメージ力が結果を左右します。

この仕組みは、のび太の成長を描くにはかなり向いています。普段ののび太なら途中で投げ出しそうですが、かくし芸大会でいいところを見せたいという目的があるため、練習を続けます。道具が努力を不要にするのではなく、努力の方向をわかりやすくする。そこに、この話の手触りがあります。

念力、透視、瞬間移動の三つが使えるという設定も欲張りです。普通ならそれぞれ別の道具になってもおかしくありません。実際、ドラえもんには視覚を拡張する道具、移動する道具、物を動かす道具がいくつもあります。エスパーぼうしはそれらをまとめて、超能力というひとつの枠に入れてしまう大胆さがあります。

ただ、三つの能力を同時に持つからこそ、使いこなす難しさも増しています。念力で物を動かす時と、透視で壁の向こうを見る時と、瞬間移動で場所を移る時では、必要な集中の方向が違うはずです。のび太が服だけ飛ばしてしまうのも、目的地のイメージと自分の体のイメージがうまく結びつかなかった結果なのかもしれません。

エスパーぼうしは、超能力へのあこがれをかなえながら、能力は持つだけでは足りないことを見せる道具です。のび太の失敗は笑えますが、その裏には、強い力ほど扱う人間の訓練が必要になるというかなり筋の通った考え方があります。

のび太向きであり、のび太向きではない道具

エスパーぼうしは、のび太に向いているようで、実はかなり相性が難しい道具です。のび太は空想力があり、調子に乗ると大胆な行動もできます。超能力をイメージする力という点では、まったく素質がないわけではありません。実際、念力や透視は短期間で形にしています。

一方で、集中力の持続や細かい制御は苦手です。瞬間移動で服だけ飛ばしてしまうのは、まさにその弱点が出た失敗です。行きたい場所を思い浮かべるだけでなく、自分の体ごと移動するという正確なイメージが必要だったのかもしれません。のび太の雑な集中では、服という目に入りやすい部分だけが先に反応したとも読めます。

この道具を出したドラえもんも、ただ楽をさせているわけではありません。手品でドラえもんを切ろうとしたのび太を止めつつ、かくし芸として成立する別の方向を用意しています。危険な手品から超能力の練習へ話を移すことで、のび太のやる気も残している。ドラえもんの対応としてはかなりうまいです。

エスパーぼうしは、超能力という派手な題材を扱いながら、最後には努力と制御の話に落ち着きます。のび太が本当に身につけたのは、念じれば何でもできるという万能感ではなく、力には練習がいるという実感だったのかもしれません。

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