ハイレールペーパー

絵を描いて、その絵の中に飛び込む——『ハイレールペーパー』はそんな夢を実現するひみつ道具です。紙に書いた風景の中に入り込み、描いたものを現実のものとして利用できるようになります。アイデアと画力次第で無限の世界が広がるという、想像力そのものを形にしたような道具です。絵という二次元の表現が三次元の体験に変わる瞬間は、この道具の使い方の中でも特に心を動かされる場面のひとつでしょう。

夢の牧場は紙の中

スネ夫が乗馬をした自慢話を聞かされたのび太。家に帰るとドラえもんが『ハイレールペーパー』で海水浴を楽しんでいるではありませんか!ドラえもんが自分で絵を描いて、その中に入り込んで涼んでいた場面は読んでいてとても微笑ましいです。ドラえもんが先に道具を使って楽しんでいるという場面は珍しく、それだけこの道具の使い勝手が良いことを示しているのかもしれません。

ハイレールペーパー
ドラえもんは絵心があるようだ

ドラえもんカラー2巻「ハイレールペーパー」P5:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

のび太は牧場を描き、しずちゃんも誘ってお手製の馬で楽しい時間を過ごすことができました。スネ夫の自慢話に対抗するためにひみつ道具を使うのかと思いきや、そこはドラえもん世界らしく純粋に楽しむことの方に比重が置かれています。スネ夫への対抗心よりも、自分たちが楽しいかどうかを優先するのび太の素直さが出たエピソードです。スネ夫の自慢をきっかけに自分たちの遊びを豊かにする、という展開はのび太の性格の良さをさりげなく描いています。

紙の中に広がる世界

『ハイレールペーパー』に景色や動物、物を描くと、紙の中の世界でそれらを利用することができます。

絵で描いた牧場、馬、自然現象の雨を降らせるなど現実世界と何ら変わりありません。のび太が描いた手作りの馬が実際に走り回るというのは、子どもの絵の持つ生命力をそのまま肯定するような演出で、この道具の詩的な魅力をよく表しています。下手な絵でも関係なく機能してくれるのか、それとも精度の高い絵の方がより正確な世界が生まれるのかは気になるところです。

紙に描かれたものが現実と同等の機能を持つということは、紙の中の世界では物理法則がそのまま成立しているということでもあります。雨を描けば濡れるし、乗り物を描けば移動できる。絵という媒体を通じて現実の縮小版が生まれるのではなく、紙の中に別の現実が存在するという考え方が面白いです。この仕組みを理解すれば、紙の中は本当に何でもできる別世界だということがわかります。描いた川で泳ぎ、描いた山に登り、描いた食べ物を食べる——そんな体験が一枚の紙から生まれるのです。

アイディア次第で広がる無限の世界

絵心とアイディアさえあれば『ハイレールペーパー』の可能性は無限大です。

絵が得意なスネ夫、しずちゃん、出木杉くんあたりにお願いすればクオリティの高い自由な世界が広がることでしょう。特にしずちゃんは絵が得意という描写がたびたびあるので、しずちゃんが描いた精緻な世界の中で遊べるとしたらどれだけ素晴らしいか想像するだけで楽しくなります。逆にのび太が描いた世界はどんな姿になるのか、想像するとそれはそれで笑えるかもしれません。

ハイレールペーパー
驚くのは無理もない

ドラえもんカラー2巻「ハイレールペーパー」P7:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

紙の中の世界で永遠に生活することも可能に思えますね。ただ食料や水の補給、紙の外との連絡手段など、長期滞在には多くの課題が生まれそうです。現実と切り離された世界で過ごすことのメリットとデメリットを天秤にかけると、冒険の拠点として短時間活用するのがもっとも現実的な使い方かもしれません。短い時間でも、行ったことのない場所や行けない場所を体験できるという価値は十分に大きいです。

使い方には気をつけたい

ドラえもんによると『ハイレールペーパー』の世界はどこまでも広がっているようです。広大な空間がたった一枚の紙の中に存在するという発想は、四次元という概念をわかりやすく表現したものとして読めます。実際に入り込んでみると、外から見ていた小さな紙とは全く異なるスケールの世界が広がっていることに驚かされるでしょう。

コミック28巻には地平線テープという、テープでのみ出入り可能な異次元世界のお話がありました。

関連ひみつ道具

テープが外れてしまうと永遠に異次元から出ることができなくなるというものです。

『ハイレールペーパー』にもその性質があるかもしれませんね。紙が破れたり出入り口を見失うと永遠に紙の中の世界をさまよい続けることになるかもしれません。使い方には十分注意したいですね。特に子ども同士だけで使う場合は、出口の場所を事前にしっかり確認しておく必要があります。紙は消耗品ですので、中にいる間に誰かが誤って紙を折り曲げたり破いたりしないよう、外にいる人への声かけも大切です。

描いた世界に入る発想の広がり

紙に描いた世界に入り込むという発想は、ほんもの図鑑の、図鑑の生き物が飛び出してくるという感覚とも通じるものがあります。あちらは図鑑から現実に引き出すのに対して、『ハイレールペーパー』はこちらから紙の中へ入っていくという逆方向の発想です。どちらも媒体と現実のあいだにある壁を取り払うという共通した世界観を持っています。

描いたものが本物になる紙が描いたものを現実世界に出現させる道具だとすると、『ハイレールペーパー』は自分自身が紙の世界に入り込むという体験型の道具です。どちらも絵と現実の境界を溶かすという点でドラえもんらしい詩的な発想を感じます。前者は現実を豊かにする道具、後者は非現実を体験させてくれる道具とも言えます。

また、どこでもドア空間入れかえ機のように場所を移動する道具と比べると、行き先を自分で描けるという自由度の高さが『ハイレールペーパー』の最大の魅力といえるでしょう。どこでもドアには行き先が現実に存在する必要がありますが、『ハイレールペーパー』は描き手の想像力の中にしか存在しない場所にも行けるのです。

現実に存在しない場所——誰も踏み込んだことのない秘密の森、空の上にある浮島、海の底の王国——そういった場所を描いて実際に体験できるという夢のような使い方ができるのが、この道具が持つ最大の可能性です。旅行に行きたくても行けない時や、架空の世界を冒険したい時に使えば、想像力がそのまま体験になる特別な道具として大きな価値を発揮します。絵を描く楽しさと、描いた世界に飛び込む楽しさが合わさったこの道具は、創造力のある人ほど使いこなせる、まさに夢のひみつ道具です。絵が下手でも、自分なりの世界を描いてそこに踏み込む体験は、誰にとっても特別な意味を持ちます。のび太のぎこちない絵の中に入り込んでみたら、それはそれで不思議な冒険になりそうです。想像力と創造力が交わる場所で輝く道具——それが『ハイレールペーパー』の本質ではないでしょうか。

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