自信を取り戻したい時はいたわりロボットを使いましょう。きっと元気が出てきますよ。何かに失敗しても励まし、勇気づけ、全ての行動をプラスに捉える言葉を投げかけてくれる道具です。ただし使いすぎると根拠のない自信過剰につながる危険性もあり、成長の機会を逃してしまう諸刃の剣的な側面も持っています。
極端なロボット
何をやっても失敗ばかりするのびたは、だんだん自分に自信が無くなっていきます。
口下手なドラえもんはいたわりロボットでのびたにやる気と元気を出させるのです。
励ましてくれるのはいいが・・・ 出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「いたわりロボット」P107:小学館
のびたは事あるごとにロボットを頼るようになり、ロボットが言うまま楽な方へ楽な方へ流される始末。これではのびたが堕落すると判断したドラえもんはしごきロボットを出し、のびたを徹底的に鍛え上げるのでした。
このエピソードはドラえもんプラス5巻いたわりロボットに収録されています。いたわりロボットとしごきロボットという対照的な2台のロボットが同じ話に登場するという構成が面白く、甘やかしと厳しさの対比が物語のテーマになっています。ドラえもんが最終的に厳しい方を選ぶというのも、のびたへの愛情の深さを示しています。
ドラえもんが口下手であるということは普段の話ではあまり強調されませんが、このエピソードではドラえもん自身がのびたを直接励ます言葉を持てないために道具を使うという設定になっています。これはドラえもんというキャラクターの新しい一面を見せてくれる興味深い描写です。
どんな失敗もプラスに捉える
いたわりロボットはあなたが何かに失敗しても、励まし、勇気づけ、全ての行動をプラスに捉える言葉を投げかけてくれます。
甘え過ぎは禁物 出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「いたわりロボット」P108:小学館
のびたでさえ自信家になるほどの影響を与えるロボットですが、使いすぎると自堕落な自信過剰につながってしまいます。失敗から学ばず、楽な方へ逃げ続けるという状態に陥ると、成長の機会を失ってしまいます。
励ましと甘やかしは似ているようで全く異なります。本当の励ましは失敗を認めた上で前進する力を与えるものですが、いたわりロボットの励ましは失敗そのものをプラスに言い換えてしまうため、失敗から学ぶ機会が失われてしまうのです。
前向きなことはいいことだけど
のびたのように基本的にクヨクヨしがちな人にいたわりロボットは一時的にはいい効果を与えます。
ところがいたわりロボットは基本的に甘やかす方向の話しかせず、失敗から立ち直りはするものの、そこから学びを得ることがありません。
論語に過ちて改めざるを是を過ちと謂うという言葉がありますが、まさにこれ。過ちから学ばず、楽な方向に逃げ続ける行動に未来はないのです。
この考え方は現代の教育心理学が提唱する成長マインドセットとは逆の方向性です。困難を乗り越えることで人は成長するという考え方に基づけば、失敗をすべてプラスに言い換えてしまういたわりロボットの使いすぎは、長期的な成長を妨げる可能性があります。
使い方の塩梅が難しいロボット
一方、考え方次第でいたわりロボットは幸福を見つけるロボットと言い換えることもできます。
日本人は幸福度が低い国として知られていますが、適度にいたわりロボットで内なる幸せを感じることは、決して生活にマイナスを与えるものではないでしょう。
のびたのように依存すると大変ですが、しっかり行動を監督してくれる人が身近にいれば心強いロボットになることでしょう。
ロボット系のひみつ道具には様々な役割を持つものが存在します。コピーロボットのように自分の代わりに動くものや、トモダチロボットのように友人として機能するもの、宿題をやるロボットのように特定の作業を代行するものなど、それぞれに異なる使い方があります。いたわりロボットはその中でも精神的なサポートという珍しい機能に特化しています。
精神面での補助ということでは、アンキパンが記憶力を補助し、天才ヘルメットが知力を高めるのと同様に、いたわりロボットは自己効力感や意欲を補助するという役割を担っています。ただし前者の2つが能力そのものを底上げするのに対して、いたわりロボットは気持ちの持ち方に働きかけるという点で根本的に異なります。長期的な成長という観点では、いたわりロボットの使い方には細心の注意が必要です。励ましの言葉は力になりますが、それだけでは成長できない、ということをこのエピソードは教えてくれます。
ドラえもんプラスのエピソードが描くいたわりとしごきの対比は、現代社会における褒め教育と厳しさの教育というテーマとも重なります。どちらが正しいという単純な答えはなく、状況と相手に応じてバランスよく使い分けることが大切だというメッセージが、このエピソードには込められているようです。いたわりロボットはその一方の極端な例として、どんな状況でも甘やかし続けることの問題点を笑いの中に包んで示しています。
いたわりロボットというネーミングは柔らかく温かみがありますが、その機能の本質は精神的な自立を妨げるという皮肉な側面を持ちます。ドラえもんのひみつ道具の中には、一見有益に見えて実は弊害もあるという設計のものが多くありますが、いたわりロボットはその典型と言えます。使い手の判断力と自律性が問われる道具として、大人が読んでも考えさせられる深みを持っています。のびたがロボットに依存し堕落していく様子を笑いながら描きつつ、その危うさをさりげなく示す藤子F不二雄先生の筆力が光るエピソードです。
いたわりロボットが出てくるエピソードは、ドラえもんとのびたの関係の本質を映し出しているとも言えます。のびたが困るたびに道具で助けているように見えて、最終的にはのびたが自分で成長できるよう促すというのがドラえもんの基本的なスタンスです。甘やかすだけでは相手のためにならないということを、ドラえもん自身がしごきロボットを出すという行動で示しています。
ドラえもんプラスシリーズには、ひみつ道具の機能とそれによって生じる人間的な問題を丁寧に描いたエピソードが多くあります。いたわりロボットのエピソードもその典型で、道具が人間の精神に与える影響という重いテーマをコメディとして軽やかに描いています。子どもが読めば笑えるドタバタとして楽しめ、大人が読めば依存や自立という深いテーマを見出せる、ドラえもんという作品の多層的な面白さを感じることができるエピソードです。
いたわりロボットの対になるしごきロボットの存在も、このエピソードを語る上で欠かせません。甘やかしと厳しさ、いたわりとしごきという対極の道具が同じエピソードに登場することで、どちらか一方だけでは人は成長できないという真実が浮かび上がります。ドラえもんがしごきロボットを選んだことは、のびたに対する深い愛情と信頼の表れです。厳しくすることも、相手を信じているからこそできるのです。
ドラえもんプラス5巻いたわりロボットのエピソードは、励ましと厳しさのバランスという普遍的なテーマを、ドラえもんらしいひみつ道具の世界を通して描いています。読者がロボットに依存するのびたを笑いながらも、どこかで自分自身と照らし合わせることのできる普遍性を持つ作品です。このような作品を短編コミックとして発表した藤子F不二雄先生の力量は、ドラえもんプラスというシリーズの中でも存分に発揮されています。




