円柱状の缶の中に入ったピンク色の粘液状のペンキ、そしてペンキを塗るためのはけを総称してひみつ道具の重力ペンキといいます。ペンキを塗った壁や天井部分に重力場が発生し、壁であれば壁が下に、天井であれば天井が下になり、そこを歩くことも、荷物を置くことも可能となります。
クリスマスパーティーを開催したいけど
ペンキを塗った壁や天井部分に重力場が発生し、壁であれば壁が下に、天井であれば天井が下になり、そこを歩くことも、荷物を置くことも可能となります。クリスマスこどもパーティーを誰の家で開催するかを相談しています。その時、指名を受けたのはあばら谷くん。どことなくパッとしない彼ですが、断ることをためらっているうちに、開催場所として決定されてしまいます。
うかない顔のあばら谷くん ドラえもん5巻「重力ペンキ」P21:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ところがあばら谷くんの家は文字どおりのあばら家であり、1部屋に6人の子供が暮らす狭小住宅でした。あばら谷くんのお母さんはあばら谷くんの気持ちを知り、クリスマスパーティーの開催場所として快く自宅を開放しますが、その代わり家族全員が外へ出なければいけません。
家の中でハンモックはやりすぎ ドラえもん5巻「重力ペンキ」P23, P24:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
そんな時、重力ペンキの意外な使い方を思いつくのびたでした。
のびたの画期的な思いつき
偶然、あばら谷くんの家の実情を知ることになったドラえもんとのびた。代わりにのびたの家でクリスマスパーティーを開催できないかママに相談しようと家に帰ったところ、パパがDIYで棚を作ったと嬉しそうにしていました。実際に荷物を乗せてみると見事に棚が壊れ、荷物が床に落下したのです。その様子を見たドラえもんが取り出したひみつ道具が重力ペンキです。このペンキを塗った部分には重力が働き、なんと壁に荷物を置くことができるのです。空いたスペースを有効活用できるので、これはいいアイディアの道具ですね。これを見たのびたにあるアイデアがひらめきます。それはなんと、あばら谷くんの家の部屋の壁と天井に重力ペンキを塗る事でした。
重力ペンキは塗った部分に重力が働き、普段は人が無意識に道路や横断歩道を渡るように、壁にも天井にも下の方向が生まれるのです。
天井が使えるのはうらやましい ドラえもん5巻「重力ペンキ」P26:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
このアイデアで、無事、あばら谷くんの家族も家から出ていく事なく、クリスマスこどもパーティーを開催する事ができました。
法則無視のひみつ道具
控えめにいって、とんでもないひみつ道具です。まず重力とは、地球上のあらゆる物が地球から引っぱられる力(引力)の事で、物体の重さの原因となっている力を言います。地球は自転もしていますので、私たちは地球の自転による遠心力の影響も受けています。従って重力とは、地球の引力と遠心力との相互作用による力のバランスを指します。ということは、重力ペンキは地球も影響を受けている遠心力を含む万有引力の法則を、ピンク色のペンキひと塗りでも覆してしまうと言わざるを得ません。ドラえもん史上類を見ない規模の夢のひみつ道具であると言わざるを得ません。もしも前後左右を重力に囲まれた場所で生活を続けた場合、どのようなことが起こるのか想像もつきません。複数の宇宙の影響を受ける惑星なんて想像できるでしょうか。
のびたに救われたあばら谷くん
いつものびたのピンチがストーリー展開の中心となるところ、今回の物語では、逆にのびたがひみつ道具の新たな使い方を思いつき、友達のピンチを救ったのです。のびたの自由な発想により、あばら谷くんの家族も家から出ていくことなく、クリスマスこどもパーティーを開催する事ができたというわけなのです。のびたが主役のお話でもあります。135億年続く宇宙の法則を、ある意味カジュアルな配色ナンバーワンとも言っていいピンク色のペンキで塗り替えるアイデアを想起させることにより、読者に痛快な読後感を与えてくれているような気がします。
重力を操るという観点では、天気系の道具とは異なりますが、自然法則に介入するという点では台風の卵やカミナリ雲と同じ系譜の道具といえます。お天気ボックスが気象を操る道具なら、重力ペンキは物理法則そのものを書き換える道具です。使い方次第では生活空間を劇的に広げることができる可能性を秘めており、住宅問題に悩む現代日本にこそ必要な道具かもしれません。あばら谷くんの狭い家を快適なパーティー会場に変えたように、重力ペンキは空間の使い方そのものを根本から変える革命的なひみつ道具です。
狭い家を広く使うという発想
重力ペンキのすごさは、部屋そのものを広げていないのに、使える面積を増やしてしまうところです。普通の部屋では床だけが生活の土台ですが、この道具を使えば壁も天井も床になります。床面積が足りないなら、上下左右の面を使えばいいという発想は、住宅問題へのかなり大胆な答えです。
あばら谷くんの家のように、広さに余裕がない家庭にとってはまさに救いの道具です。家族を外に追い出すのではなく、同じ空間を別の角度から使えるようにする。のびたの思いつきは奇抜ですが、困っている友達を助けるための温かさがあります。ここがこの話の読後感をよくしている部分でしょう。
生活するときの注意点
実際に重力ペンキを使って生活するなら、かなり細かいルールが必要になります。壁に立っている人から見ると床の人は横向きに見え、天井にいる人から見ると部屋全体が逆さまになります。物を落とした時にどちらへ落ちるのか、別の重力面との境目で体がどうなるのか、考え始めると不思議だらけです。
家具の配置も大きく変わります。壁にテーブルを置けるなら便利ですが、普通の床にいる人から見ると横の壁に食器が並んでいる状態です。慣れないうちは目が回りそうですし、複数人が別々の重力面で動くと衝突も起きやすいでしょう。夢のある道具ですが、安全に使うには相当な設計が必要です。
のびたが見せた優しさ
この話では、のびたがただ道具で遊ぶだけでなく、あばら谷くんの事情を知って自分なりに解決策を考えます。のびたは勉強も運動も苦手ですが、困っている人を見た時の発想力と優しさは強みです。重力ペンキは、その長所がうまく表れた道具でもあります。
クリスマスパーティーという楽しいイベントの裏に、家の狭さや家庭の事情という少し切ない問題がある。その問題を、暗くならずに未来の道具でひっくり返すところがドラえもんらしいです。重力ペンキは物理法則を変えるだけでなく、その場の空気まで明るく変えてしまう道具なのです。
未来の住宅に応用したい
重力ペンキが実用化されれば、住宅設計は大きく変わります。床面積だけで部屋の広さを考える必要がなくなり、壁や天井を収納、通路、作業スペースとして使えるからです。ワンルームでも、重力面を分ければ複数の生活エリアを作れるかもしれません。
宇宙船や地下施設のように、限られた空間を最大限使いたい場所でも役立ちます。重力を局所的に作れるなら、無重力空間での作業や荷物の固定にも応用できそうです。ピンク色のペンキという気軽な見た目に反して、技術としては都市計画や宇宙開発にまで広がる可能性があります。
家族を追い出さない解決
この話で印象に残るのは、あばら谷くんの家族が外へ出ていかずに済んだことです。狭い家でパーティーを開くために、誰かが我慢するのではなく、空間の使い方を変えることで全員が残れるようにした。これはとてもドラえもんらしい優しい解決です。
便利なひみつ道具は、ときに人を怠けさせたり騒動を起こしたりします。しかし重力ペンキの使われ方は、誰かの居場所を守るためのものです。物理法則を変えるほどの大きな力が、友達の小さな願いのために使われる。そのスケールの差が、この道具をより魅力的にしています。





