バタバタフライ

背中に背負って羽を動かすだけで、蝶のように空を飛べるひみつ道具——それが『バタバタフライ』です。プロペラで上昇するタケコプターとは異なり、羽ばたきによる不規則な動きで宙を舞うのが最大の特徴です。蝶という生き物が持つ優雅さをそのまま人間の飛行体験に落とし込んだ、ドラえもんらしい詩的なひみつ道具です。飛ぶための道具としてだけでなく、蝶という自然の美しさへの憧れをかたちにしたような一品です。

宙を舞うめずらしい蝶

庭の蝶を見ていたのび太は、蝶のように飛べたらと空想します。自由に花から花へ舞う蝶の姿に憧れるのは、のび太に限らず多くの人が一度は感じる夢でしょう。目の前をひらひらと舞う蝶を眺めながら、自分もああなれたらと思う感覚は、子どもにとってごく自然な想像です。

ドラえもんは『バタバタフライ』を取り出し、しずちゃんも誘って空の散歩を楽しみます。大きな蝶の羽を背中に装着して宙に浮かぶ姿は、コミックのページから飛び出してくるような生き生きとした場面です。のび太がいつになく生き生きしている場面のひとつで、ドラえもんとのび太の仲の良さがよく伝わってきます。

バタバタヒラヒラ
かなり大きな道具である

ドラえもんカラー1巻「バタバタフライ」P152:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

裏山で楽しく遊んでいたところをジャイアンとスネ夫に邪魔されるいつもの流れがありますが、おいしいはなジュースで癒やされる一行なのでした。ハチバージョンの道具まで登場して騒動になりますが、最終的にはのどかな結末へと収まっていきます。のび太たちの日常における冒険の小さなひとコマとして、読み返すたびに温かい気持ちになれるエピソードです。

蝶のように舞うひみつ道具

『バタバタフライ』を背中に背負って羽を動かすと蝶のように空を飛ぶことができます。羽は蝶そのものを拡大したような形をしており、背中に背負うと装着者が蝶に見えるようなデザインになっています。コミックでのび太が装着した場面を見ると、道具のサイズがかなり大きく、小学生の体全体をカバーするほどの羽が広がっていることがわかります。

タケコプターのように一定の高度を維持しながら飛ぶだけでなく、独特の上下運動を伴った不規則な動きになることが予想されます。タケコプターが効率的な移動手段として機能するのに対して、『バタバタフライ』は蝶らしさを再現することで飛ぶ体験そのものの楽しさを優先した道具といえます。目的地に速く着くことよりも、飛んでいる時間そのものを楽しむことに価値を置いた設計です。

羽の面積が広いため、風の強い日に使うと流されてしまう恐れがありますね。蝶が強風の日に木陰で静止しているのと同じように、天気を選んで使う必要がありそうです。また着用するサイズが大きいため、狭い屋内での使用には向いていないでしょう。屋外の開けた場所でこそ真価を発揮するひみつ道具です。春のおだやかな日差しの中、花が咲き乱れる野原の上空を舞うような使い方が、この道具には最もよく似合います。

蜂バージョンもあるよ

『バタバタフライ』には蜂バージョンもあり、大きな針を使って相手を攻撃することができます。蝶の穏やかな飛び方とは打って変わって、蜂の攻撃的な機動力を備えたバージョンです。このエピソードではジャイアンとスネ夫への対抗手段として登場しており、のび太が使ったというより道具が持つ別の顔を見せるための演出として機能しています。

バタバタヒラヒラ
さすがにこの針で刺されたら軽傷ではすまないだろう

ドラえもんカラー1巻「バタバタフライ」P156:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

蝶と違って素早い動きで対象物に向かって飛ぶのが特徴的ですね。コミックで描かれた針の大きさを見ると、これで刺されたら軽傷では済まないだろうという迫力があります。防衛用として使えそうですが、扱いには慎重さが求められます。同じ道具に攻撃機能と飛行機能の両方が備わっているというのは、道具の設計として少し不思議な組み合わせでもあります。

小学生向けの内容

もともと『バタバタフライ』は小学一年生の雑誌で掲載されたストーリーです。

読者は小学一年生を想定したものなので道具の性能もシンプルで、難しい内容ではありません。使い方を説明しなくても名前を聞いただけで蝶のように飛べる道具だとすぐにわかる直感的なネーミングも、低学年向けの配慮が感じられます。道具の名前がそのまま説明になっているというのは、ドラえもんのひみつ道具全般に共通する特徴ですが、特にこの道具は名前と機能が一致した上に夢のある響きを持っています。

老若男女だれでも理解できて、それでいて大人でさえ惹きつけてしまう魅力を伴うストーリー設定は、さすが藤子先生といったところでしょうか。シンプルな発想の中にのび太の夢想家らしさとドラえもんの優しさが詰まっています。低学年向けの短いエピソードでありながら、空を飛ぶという普遍的な夢と友情という普遍的なテーマが両立している点がこの作品の力量を示しています。

似たひみつ道具

昆虫を操って自由に空の旅を楽しむ操虫かんがコミック27巻に登場しました。

関連ひみつ道具

近くを飛ぶ昆虫に乗り込んでコントロールするひみつ道具ですが、『バタバタフライ』と似て非なるものです。

自由度の点では『バタバタフライ』のほうははるかに高く、生き物を支配しているという罪悪感もなく、飛びたいときにいつでも使えるメリットもありますね。操虫かんは実在の昆虫を探して乗り込む手間が必要ですが、バタバタフライは取り出してすぐ使えます。また乗れる昆虫のサイズに制限がある操虫かんと違い、バタバタフライは自分自身が蝶になれるという点で体験の質が根本的に異なります。

また、のび太が自ら考案したスポーツであるバタバタヒラヒラで使う強力うちわ風神でも、蝶に似た動きが可能でしょう。こちらはそれなりに練習が必要なのと、万が一うちわを落としてしまった時の対処法を考えておく必要がありますね。スポーツとして楽しむ場合はどうしても技術的な習熟が求められますが、バタバタフライは誰でもすぐに蝶の飛び方を体験できるという点で敷居が低いといえます。

空を飛ぶ夢と道具の多様性

空を自由に舞う夢は人類が古来から抱いてきたものですが、蝶のような優雅な飛び方ができるひみつ道具というのはドラえもんの世界ならではの発想です。空とぶじゅうたんのようにゆったり移動するのも素敵ですが、自分の体に羽をつけて風を感じながら飛ぶ感覚は、また別格の体験になるでしょう。じゅうたんに乗るのとバタバタフライを装着するのとでは、飛んでいる時の体感が全く違うはずです。前者が車に乗るような感覚なら、後者は自分が鳥になったような感覚に近いかもしれません。

フワフワオビのように体を浮かせてふわふわ漂うのとも異なり、蝶が花から花へ舞うように意志を持って方向を変えながら飛べるところが『バタバタフライ』の魅力です。タケコプターが目的地への最短移動を重視するなら、バタバタフライは飛ぶこと自体を楽しむための道具といえます。春の晴れた日に野原の上空をひらひら舞う——そんな体験ができるなら、誰もがのび太と同じように試してみたいと思うでしょう。

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