標本採集箱は、図鑑や写真など指定した生き物の画像をセンサーに当ててボタンを押すと、本物をそのまま箱の中に取り寄せて採集できるひみつ道具です。箱の中にいる間はじっとしていますが、出すと再び動き出すという面白い仕組みを持っています。コミックプラス6巻「標本採集箱」に登場し、友達の間で標本採集が流行しているという場面から始まるエピソードで活躍します。
世にも珍しいジャイアンの標本
友達の間で流行っている標本採集。のび太はドラえもんから標本採集箱を借り、珍しい生き物の標本を作ります。のび太が自力で虫を捕まえようとしてもうまくいかないのが目に見えていますが、標本採集箱があれば話は別です。図鑑を手に取り、憧れのカブトムシや珍しい蝶を次々と箱に取り寄せる姿は、いつものぐうたらなのび太とは別人のようなエネルギーを感じさせます。
立派なカブトムシである 出典:ドラえもんプラス6巻「標本採集箱」P71:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
その様子を見ていたジャイアンに道具を取り上げられてしまうのですが、ドラえもんが機を利かせてジャイアンの標本を作り、世にも珍しいジャイアンの標本が完成したのでした。
標本の間はじっとしている 出典:ドラえもんプラス6巻「標本採集箱」P73:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ジャイアンの標本が完成したというのは、のび太の目には最高の仕返しに映ったことでしょう。箱の中でじっとしているジャイアンの姿は、普段の威圧的な様子とはまるで正反対です。ドラえもんが機転を利かせてこういう形に持っていくところに、このエピソードのユーモアがあります。ジャイアンが道具を奪うという悪い行動が、結果的にジャイアン自身が標本になるというオチに繋がる構造は、藤子先生らしい因果応報の笑いです。
お手軽な標本
標本採集箱のセンサーを図鑑でも写真でもなんでもいいので欲しい生き物に当ててボタンを押すと、本物を箱の中に取り寄せることができます。
箱にいる間はじっとしていますが、箱から出ると再び動き出すのです。
昆虫採集や標本作りは子供の夏の定番趣味ですが、実際に野山を駆け回って虫を捕まえるのは体力と運も必要です。標本採集箱はその手間を完全に省いてくれます。図鑑のページを開いてボタンを押すだけで、どんな珍しい生き物でも手元に集まるという利便性は圧倒的です。
この道具の面白い点は、箱の中にいる間は生き物が動かなくなるという特性です。標本といえば通常は死んだ状態で固定したものを指しますが、標本採集箱の場合は生きたままじっとしている状態です。箱から出せば元気に動き出すため、見た目は標本でも実態は生きているという、通常の標本とは根本的に異なる状態を作り出します。これは観察や展示のためには理想的で、生き物に無用な負荷をかけない点でも優れた設計といえます。
複数の標本も作れます
標本採集箱には一度に複数の生き物を入れることもできます。
のび太が集めたとは思えない 出典:ドラえもんプラス6巻「標本採集箱」P72:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
数が増えると見た目も華やかになり、いかにも標本採集といった感じがでますね。
たとえば昆虫標本のケースに何十匹もの蝶が並んでいるような、本格的なコレクションを短時間で作れてしまいます。専門家が長年かけて集めるような珍しい種類も、図鑑があれば取り寄せ可能という点で、コレクターにとって夢のような道具です。ただし、その生き物は本物であり生きたままである点も忘れてはなりません。
複数の生き物を同時に入れられるということは、箱の中でそれらの生き物がどんな状態になっているのかも気になるところです。食う食われるの関係にある生き物同士でも、箱の中ではじっとしているとすれば、天敵でも安全に同じ箱に入れられることになります。カブトムシとスズメバチ、ライオンとシマウマが同じ箱の中でおとなしくしているという、通常では考えられない光景が実現するかもしれません。
好きな人も標本もお手軽に
アイドルや芸能人の写真が手元にあれば、誰でも簡単に標本を作ることができます。
しかも、動きはしないものの、当の本人が箱の中にいるわけなので、満足度も高いですね。
さらに、あまりおすすめできる使い方ではありませんが、箱から逃がすと標本は動き出すため、それを利用すると任意の人をその場に呼び寄せる目的にも使えてしまうわけです。
箱から出た瞬間に動き出すという性質上、使い方によっては非常に強力なツールになります。ドラえもんが機転を利かせてジャイアンを標本にしたのも、その性質を逆手に取った使い方の一例です。力が強くて乱暴なジャイアンでも、箱に入っている間はじっとしているしかないという状況は、標本採集箱が持つ意外な制圧力を示しています。
また、ジャイアンを標本にする際にドラえもんが使ったのはジャイアンの画像です。つまり人物でも動物でも、写真や図鑑に掲載されているものなら何でも標本にできるということになります。世界中の珍しい動物も、図鑑に載っていれば取り寄せ可能という設計は、地球上のどの場所にいる生き物でも採集できるという無限の可能性を示しています。
邪魔者を閉じ込めろ
ドラえもんのように機転を利かせると、邪魔な相手を一時的に閉じ込めておく箱としても使えますね。
例えばジャイアンの写真を常に携帯しておき、誰かに乱暴しようとした時に標本にしてしまうのです。
いつもいつも標本にされていたら、さすがのジャイアンもおとなしくなるのではないでしょうか?
いや、ジャイアンは動物よりも物覚えが悪く、天ばつムチで何度痛みを与えられても乱暴をやめることはありませんでした。
標本にされたぐらいでは改心しない可能性も考えられますね……。ジャイアンという存在の手強さは、あらゆるひみつ道具をもってしても根本的な解決に至らないという、ドラえもんシリーズ全体を通じたテーマの一つでもあります。それでも毎回新しい道具で挑戦するのび太とドラえもんの姿が、この作品の笑いを生み続けています。
同じコミックプラス6巻にはハーメルンのごきぶりふえやチリつもらせ機など、生き物や物を集める・操作するという方向性を持つ道具が複数登場します。標本採集箱はその中でも特に生き物との関わりが深く、採集という子供の遊びを22世紀の技術で拡張した道具です。ガチガチンのように性格を変えてしまう道具が同じ巻にあることを考えると、コミックプラス6巻はひとの内面から生き物の採集まで幅広いテーマを扱っていることがわかります。
新聞社ごっこセットのように情報を集める道具とは対照的に、標本採集箱は実物の生き物を集めるという物理的な収集に特化した道具です。どちらも「集める」という行為に関わっていますが、その対象と目的は全く異なります。ドラえもんのひみつ道具には、集めるというテーマを様々な角度から実現した道具が数多く存在しており、その多様性がこのシリーズの奥深さを生んでいます。標本採集箱は子供の夏の趣味という身近なテーマから出発しながら、ジャイアンを標本にするという意外な結末まで展開する、コミックプラス6巻の中でも読み応えのある一話です。道具の便利さと意外な使い道が交錯する、ドラえもんらしいエピソードといえます。






