ミミダケの菌糸

周囲の音を録音して成長するミミダケの菌糸を紹介します。木にふりかけることで周囲の音を栄養にして育ち、録音装置として機能するきのこ、ミミダケを育てるための種のような道具です。単体では機能せず、ミミダケとシャベリップという3点セットでひとつの録音システムが完成します。

諜報活動にミミダケ

ジャイアンたちが自分の悪口を言っているかもしれない、と感じたのびたは、ドラえもんからミミダケの菌糸を受け取り、空き地に仕掛けます。

ミミダケは周囲の音を録音して成長するきのこで、ミミダケの菌糸から成長するのです。きのこが自然に生えてくるだけで、そこに仕掛けがあるとは誰も気づかない、という巧みな設計です。

ミミダケの菌糸
ごく普通の菌糸に見える

出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「ないしょ話…」P25:小学館

案の定、ジャイアンとスネ夫はのびたをいじめるために陰口を叩いていたのですが、復讐を思いついたドラえもんとのびたのとった行動とは。ドラえもんはあけっぴろげガスを使って仕返しを企みます。録音した内容を証拠として逆用するという、なかなかスパイらしい展開です。情報を先に知っている側が有利というのは、諜報活動の基本でもあります。

気になる箇所に菌糸を仕掛けよう

ミミダケの菌糸は木にふりかけることで周囲の音を栄養にして育ちます。

音を録音するわけですが、専用プレイヤーシャベリップの葉の上にミミダケを乗せると音が再生される仕組みです。色々な音を録音し、ミミダケコレクションを揃えるのも楽しいかもしれません。自然の音を録音して集めるという趣味的な使い方もありそうです。

ひみつ道具を使った情報収集という観点では、ないしょペンこっそりカメラなど、相手に気づかれずに情報を集める道具がいくつか存在します。ミミダケの菌糸はその中でも特に自然な見た目で溶け込める点がユニークです。仕掛ける場所を選べば、誰かがその周辺を調べたとしても録音装置があるとは気づかれにくいでしょう。

菌糸を仕掛けてからきのこが育つまでにどれくらい時間がかかるのかは作中では明示されていませんが、事前に準備しておく必要があるため、計画的な情報収集に向いていると言えます。突発的な場面での使用よりも、ある程度先を見越した上での設置が求められる道具です。

ピンポイントで狙うのはかなり難しい?

ミミダケの菌糸は周囲の音を栄養にして育ちますが、ねらった音だけを録音するのはかなり困難を極めると思われます。

虫の鳴き声や風の音など、かなり小さな音も栄養にして成長するミミダケですが、おそらくある程度成長すると、それ以上は大きくならないものと予想されます。

つまり、本来録音したかった音を録る前に、周囲の音の影響で想定以上にきのこが育ってしまうのではないでしょうか。

ミミダケの菌糸
都合よく特定の音を録音するのは難しい気が

出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「ないしょ話…」P26:小学館

のびたが菌糸を仕掛けた空き地でも、道路を走る車の騒音だったり人の話し声が多少なりとも入っているはずで、のびたがジャイアンたちの会話を録音できたのは運がよかったと解釈することもできるでしょう。

録音した音の中から必要な部分を聞き取るというのは、それ自体がひとつの作業になります。うそ発見器で相手の発言の真偽を確かめたり、ヘッドランプで暗所での行動を記録したりするように、各道具を目的に合わせて使い分けることが情報収集の鍵です。かげとりもちのように視覚情報まで合わせて収集できれば、音だけでなく場の状況全体を把握できるようになります。

ミミダケの菌糸は仕掛けてから成長を待つという手間がかかりますが、それゆえに相手に気づかれにくいという利点もあります。じっくりと時間をかけて情報を集めたい場面では、意外と頼りになる道具かもしれません。

ひみつ道具には完璧なものはほとんどなく、それぞれに得意不得意があります。ミミダケの菌糸も同様で、自然に溶け込んだ録音という強みを活かしつつ、特定の音の狙い録りという弱点を他の道具で補うという使い方が賢明でしょう。ドラえもんのひみつ道具をうまく組み合わせることで、単体では発揮できない力を生み出すことができるのです。

音の録音という地味な機能に見えますが、のびたがジャイアンたちの陰謀を事前に知ることができたのも、ミミダケの菌糸とミミダケそしてシャベリップという3点セットが機能したからです。地味な道具でも、使いどころと組み合わせ次第で大きな働きをするというのは、ドラえもんのひみつ道具が教えてくれる知恵のひとつと言えるでしょう。

ミミダケの菌糸は道具単体で完結しないという点で、ドラえもんのひみつ道具の中でも少し変わった存在です。種を植えて育てて収穫するというプロセスは、農業的な発想に近いものがあります。そのプロセスが面倒に感じられるかもしれませんが、仕掛けた事実が残らないという観点では、インスタントな道具よりも用心深く使えるという側面もあります。

また、菌糸から育てるという生き物的な側面を持つ点も興味深いです。ひみつ道具の多くは機械的な動作で機能しますが、ミミダケの菌糸は音を栄養に育つという有機的な成長プロセスを持っています。このような生き物と道具の中間的な性格を持つひみつ道具は他にも存在しますが、それぞれがユニークな方法で機能するのがドラえもんの世界の豊かさです。地味だけれど個性的なミミダケの菌糸は、ドラえもんのひみつ道具コレクションの中でも忘れがたい存在感を持っています。

ドラえもんプラス5巻のないしょ話…というエピソードでは、ミミダケの菌糸とミミダケそしてシャベリップという3点セットが連動して機能する様子が描かれています。菌糸を仕掛けて、きのこが育つのを待って、専用プレイヤーで再生するという手順は、現代のボイスレコーダーと比べると明らかに手間がかかります。しかしその手間こそが、ドラえもんのひみつ道具らしい味わいでもあります。便利さだけを追求するのではなく、道具と向き合うプロセスそのものに楽しさが宿っているという考え方は、ドラえもんという作品が大切にしているものに通じているのかもしれません。使うことに少し手間がかかるからこそ、うまく使えた時の喜びも大きくなる。ミミダケの菌糸はそういった道具です。

ドラえもんプラスは、週刊誌や月刊誌に掲載されながらも単行本には収録されなかった作品を集めたシリーズです。そのため、通常のドラえもんコミックだけを読んでいる人には馴染みのないひみつ道具が数多く登場します。ミミダケの菌糸はそのようなドラえもんプラスならではの道具のひとつで、知る人ぞ知る存在です。ドラえもんのひみつ道具は正式に設定されているものだけで数百種類に上ると言われていますが、プラスシリーズに登場する道具まで含めると、その数はさらに多くなります。ドラえもんファンとして、有名な道具だけでなくこうしたマイナーな道具まで知ることが、ドラえもんの世界をより深く楽しむことにつながります。

ミミダケの菌糸とミミダケはセットで使う道具ですが、それぞれが別の記事として紹介されているのは、ふたつの道具がそれぞれに独立した役割を持っているからです。菌糸は種を仕掛けるという準備の役割を担い、きのこであるミミダケが実際の録音機能を果たします。この役割分担は、現実の生物としてのきのこの仕組みをそのままひみつ道具に応用したような発想の面白さがあります。ドラえもんのひみつ道具の中には、こうした自然の仕組みをヒントにしたものが数多く存在します。身近な生き物や自然現象をベースにした発想が、ドラえもんのひみつ道具を親しみやすくユニークなものにしている理由のひとつと言えるでしょう。

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