気になる会話や音はこっそり録音して確認しましょう。そんな用途に使えるのがミミダケです。周囲の音を吸収して成長するきのこ型の道具で、録音した音を再生するには専用のプレイヤーが必要になります。見た目はきのこそのものですが、れっきとしたひみつ道具です。
のびたが気になる秘密の会話
ジャイアンたちがのびたに隠れて空き地でこそこそ会話していて、のびたはきっと自分の悪口を言っているに違いないと思い込んでしまいます。こういう場面でドラえもんに相談するのがのびたのパターンです。ジャイアンたちの会話をミミダケを使って録音して確認したところ、たちの悪いいたずらの計画だと判明。
発起人はスネ夫か? 出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「ないしょ話…」P28:小学館
ドラえもんはあけっぴろげガスで仕返しを企むのでした。録音した内容を証拠として使い、相手の計画を逆用しようというドラえもんらしい機転です。このエピソードではのびたの被害妄想と、ドラえもんの頼もしい後方支援が見事に対比されています。ジャイアンたちの計画が自分たちに跳ね返ってくる展開は、ドラえもんのお約束でもあります。
この話でミミダケが使われたのは敵の計画を事前に知るためですが、使い方によっては自分に向けられた悪意を早めに察知して対処するという防衛的な役割も果たせます。監視やスパイというと後ろめたいイメージがありますが、身を守るための情報収集という側面もあるのです。
音を吸収して育ちます
ミミダケは周囲の音を吸収してミミダケの菌糸から成長し、音を録音します。人の会話はもちろん、山の中で動物の鳴き声や風の音など、音に関するものならなんでも録音してしまいます。
ひみつ道具として録音機能はシンプルながらも強力で、自然な形で周囲の音を集められる点が特徴です。ミミダケの菌糸から育てるという仕組みも独特で、菌糸を仕掛けた場所に生えてきたミミダケが録音装置として機能します。きのこ型という外見も、屋外に自然に溶け込ませやすく、道具として目立ちにくいという実用的な利点があります。
音の録音という機能自体はシンプルですが、自然に育つプロセスを経ることで道具を仕掛けたという痕跡が残りにくいのも特徴のひとつと言えます。仕掛けたことを相手に気づかれないままに情報を集められるかどうかは、場所の選び方や周囲の状況にもよるでしょう。
専用の再生機が必要
ミミダケで録音した音を聴くためにはシャベリップと呼ばれる花型のプレイヤーが必須です。
これがちょっと不便で、わざわざ専用の再生機を用意する必要があるので場所も取るし面倒くささを感じるかもしれませんね。ないしょペンやこっそりカメラのような道具は比較的手軽に使えますが、ミミダケは設置から再生まで手順がある分、用途を選んで使う道具と言えそうです。
シャベリップという再生機の名前も面白く、しゃべりを聞くためのリップという語呂合わせになっています。道具のネーミングセンスはドラえもんらしく、機能をそのまま名前に反映させているものが多いですが、このセットもミミダケとシャベリップという組み合わせでひとつの録音再生システムを構成しているわけです。
専用のプレイヤーが必要という制約は不便ではありますが、逆に言えばシャベリップを持っていない人には内容を聞かれないという意味でのセキュリティにもなります。録音内容が誰にでも簡単に再生できてしまうよりも、専用機器が必要という仕組みは一定の安全性を担保しているとも考えられます。
ネーミングはいいけど効果は微妙か
ミミダケと耳をかけたひみつ道具のネーミングだと想像されますが、音を録音するだけの機能と考えると効果はいまいちと言わざるを得ません。
見た目も耳っぽい 出典:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄「ドラえもんプラス5巻「ないしょ話…」P24:小学館
音を拾うならうそ発見器で真偽まで判定してしまう方が効率的ですし、ヘッドランプのように周囲の状況を詳しく把握できる道具もあります。また、かげとりもちのように視覚情報まで記録できる手段と組み合わせれば、音だけでなくより完全な情報収集が可能になるでしょう。
なんなら普通にボイスレコーダーでもいいのでは?と思ってしまいますね。ドラえもんのひみつ道具には、このように効果がちょっと残念なものもたくさんあるのですが、そういう点もドラえもんを総合的に楽しむための要素なのでしょう。
とはいえミミダケのように目立たない外見でひっそり音を記録するという発想は、調査や証拠集めの場面では実用的な側面もあります。きのこに見せかけた録音装置というアイデア自体は、スパイ道具としてなかなか秀逸なコンセプトと言えます。専用プレイヤーの不便さという欠点はありますが、ミミダケとシャベリップを合わせた録音再生システムとして捉えれば、完結した道具セットとして機能しています。
ドラえもんのひみつ道具には、単体では使いづらいものでも組み合わせることで力を発揮するものがあります。ミミダケもそのひとつで、状況と使い方をうまく考えることが道具を活かすカギになります。情報収集の場面で他のスパイ系ひみつ道具と組み合わせれば、より効果的に活用できるでしょう。
ミミダケが登場するないしょ話…というエピソードは、ドラえもんプラス5巻に収録されています。ジャイアンたちの陰謀を事前に知ることができたのびたがドラえもんと一緒に仕返しを計画するという展開は、いつもやられっぱなしののびたが珍しく主体的に動く回として楽しめます。道具を使って情報を先に手に入れ、その情報を逆用するという発想は、スパイ小説や探偵ものに通じるスリルがあります。ドラえもんのひみつ道具の中でも、情報収集系の道具はそういった諜報的な面白さを持つものが多く、子どもながらに情報を持っている側が強いという現実を感じさせてくれます。
ドラえもんプラスという作品は、通常のドラえもんコミックには収録されなかった話をまとめたシリーズで、全6巻が発行されています。通常のコミックとは若干異なるテイストの話も収録されており、ドラえもんファンには見逃せない存在です。ミミダケが登場するエピソードも、そのプラスシリーズならではの少しユニークな道具が登場する回のひとつと言えます。地味ながらも愛嬌のあるミミダケは、ドラえもんプラスを読んだ人だけが知っている道具として、コアなファンの間では印象深いひみつ道具のひとつになっているかもしれません。
ないしょ話…というエピソードのタイトルも、ひみつ道具の内容と絶妙にリンクしています。ないしょ話を盗み聞きするための道具としてミミダケが使われるという構造が、タイトルとテーマを自然につなげています。ドラえもんの話はタイトルがそのままエピソードの内容を示しているものが多く、ないしょ話…というタイトルからも隠された会話や秘密というテーマが伝わってきます。秘密を知ろうとする人間の好奇心と、その好奇心が生み出すトラブル、そしてそれを笑いに変える展開は、ドラえもんの物語の普遍的な面白さのひとつです。ミミダケはその面白さを生み出すための道具として、このエピソードになくてはならない存在でした。
情報収集という行為はどこまで許されるのか、という問いはドラえもんの物語の中に繰り返し登場するテーマです。のびたがジャイアンたちのことを探ろうとする動機は、自分が悪口を言われているという不安からです。その不安を解消するためにミミダケを使うという行動は、道具があれば何でも許されるわけではないという問いを読者に投げかけています。実際に録音されていた内容がのびた自身への悪意あるいたずらの計画だったとはいえ、もし普通の話し合いをしていただけだったとしたら、こっそり録音していたのびたの行動は批判されるべきものでした。ドラえもんはそういった微妙な道徳的問いを日常の笑いの中に織り交ぜているのです。




