なんでも願いを叶えてくれる「ねがい星」。これさえあれば正直やりたい放題です。ところがこのねがい星、使う時にはちょっと注意しなければいけないひみつ道具なんです。
勘違いをするねがい星
ねがい星にお願いすると、なんでもすぐにその場で叶えてくれるのですが、実はかなりの頻度で勘違いばかりしてしまう欠点があります。お金が欲しいという願いに対してくず鉄ばかり出してしまったり、香水が欲しい時には洪水を出したり、見ているこちらが悲しくなってしまうほどです。
スネ夫の怪我が心配である ドラえもん10巻「ねがい星」P144:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
これでは安心して使うことができません。とはいえ、ねがい星を有効活用する方法がないわけでもありません。
パターンを分析するしかない
ねがい星が勘違いするのであれば、いくつものパターンでねがい星を使い続けるのが最も近道です。例えば「香水」と「洪水」を勘違いしたのであれば、今度は「行水(ぎょうずい)」や「王水(おうすい)」などでねがい星にお願いし、本当に香水が出るようになったらその音声データをサンプルとして保管しておきます。そうすることで、次回本当に香水が欲しい時はその音声を使えば確実に香水を手に入れることができます。お願いする人を1人に固定し、声を録音し、何度お願いしても同じ香水が出るようになったらその音声データをサンプルとして保管しておきます。そうすることで、次回本当に香水が欲しい時は確実に手に入れることができます。注意しなければならないのは、ねがい星は勘違いする点です。今回はちゃんと香水が出たのに、次は全く別のものを出す可能性がゼロではありません。そこは根気よくサンプルを収集し、いくつものパターンを分析し、確立を高めていく方法しかあります。そもそも何も労せず楽しんでお願いを叶えてもらおうとしているのであれば、これくらいの努力は必要だと思います。
善人にはいい結果がきやすい?
ねがい星は、もともとドラえもんが処分しようとしていたのをのびたがこっそり持ち出したひみつ道具です。それをジャイアンとスネ夫が横取りし、散々な結果になったわけですね。その怨みを晴らすべく、スネ夫はのびたの部屋の中に雨を降らそうとねがい星にお願いしますが、結果的に大量の飴が降り注いだのでした。
食べきれないほどの雨に喜ぶ二人 ドラえもん10巻「ねがい星」P145:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
悪人(ジャイアン、スネ夫)には鉄槌が下され、善人(のびた、ドラえもん)にはいい結果が訪れるという構図になりましたね。ドラえもんは子ども向けマンガなのでこういう終わり方で全く問題ないのですが、ねがい星が善人と悪人を見分けているとは正直考えづらいものがあります。やはりさっき紹介したパターン分析を繰り返すことで精度を高めていけばいいでしょう。そもそも何も労せず楽しんでお願いを叶えてもらおうとしているのであれば、これくらいの努力は必要だと思います。
ねがい星のような何でも願いを叶える道具は、ドラえもんの世界では扱いの難しいカテゴリーに入ります。天気系の道具でも同様で、お天気ボックスはカードが正規品でないと機能しないという制限があり、雲とりバケツは雨雲を集めることはできても思わぬ場所で放出してしまうリスクがあります。
ねがい星の勘違いというユニークな欠点は、同じ天気・自然カテゴリーのさすと雨がふるかさの「傘なのに雨が中に降る」という逆転の発想と共通しています。どちらも「期待通りに機能しない」という点で、ひみつ道具が完璧ではないことを示しています。
また、台風の卵は育て方次第で大変なことになる危険性があるように、ねがい星も使い方を誤ると大変なことになります。便利な道具ほど使う側の理解と慎重さが必要だというのは、ドラえもんのひみつ道具全般に共通するテーマでもあります。
万能なのに信用できない
ねがい星の一番の面白さは、願いを叶える力そのものは本物なのに、聞き取りがまったく信用できないところです。能力だけ見れば最強クラスのひみつ道具ですが、入力の段階で間違えるため、結果がとんでもない方向へ転がります。願いを叶える道具なのに、お願いする側が緊張しなければならないという逆転が笑えます。
この欠点は、ある意味で願いごとの危うさをわかりやすくしています。人間の願いは、言葉にすると意外とあいまいです。「お金がほしい」「いいものがほしい」「雨を降らせたい」といった願いも、状況や言い方によって意味が変わります。ねがい星はそのあいまいさを容赦なく拾い、最悪の形で実現してしまう道具なのかもしれません。
もし本当に使うなら、短い言葉で頼むより、条件を細かく指定する必要がありそうです。いつ、どこに、何を、どれくらい、どの形で出してほしいのか。そこまで説明しても聞き間違える可能性があるので、かなり手間がかかります。万能の願望実現装置なのに、実際には発注書を書くような慎重さが必要になるわけです。
願いを叶える資格
ねがい星は、ジャイアンやスネ夫のように欲張って使う人ほど痛い目を見る構図になっています。もちろん道具自体が善悪を判断しているとは限りませんが、物語としては「楽して得をしようとすると失敗する」という教訓がはっきり出ています。
のびたたちに飴が降るオチも、単なる聞き間違いなのに少し救いがあります。雨を降らせるつもりが飴になる。被害ではなくごほうびのような結果になることで、ねがい星の理不尽さが最後に楽しい方向へ転がるのです。扱いにくい道具ですが、こういう偶然の幸福があるから憎めません。
願いを叶える道具は、何を願うかよりも、どんな気持ちで使うかが問われます。ねがい星はその点を、聞き間違いというギャグで見せてくれるひみつ道具です。
さらに、ねがい星は「何でも叶う」ことへのブレーキにもなっています。もし完璧に願いを叶えてくれる道具なら、物語はすぐに終わってしまいます。お金も食べ物も欲しいものも、全部出してしまえば努力も工夫もいりません。ところがねがい星は聞き間違えるため、使うたびに予想外の事件が起きます。万能であるはずなのに、物語を動かすトラブルメーカーにもなっているのです。
のびたがこっそり持ち出した道具である点も重要です。ドラえもんが処分しようとしていたということは、未来でも扱いに困る欠陥品だった可能性があります。そんなものを勝手に使えば、当然ひどい目に遭います。願いを叶える力に飛びつく前に、なぜドラえもんが捨てようとしていたのかを考えるべきでした。
ねがい星は、楽して得をしたい気持ちをくすぐりながら、その安易さをしっかり笑いに変える道具です。便利さよりも欠点の方が記憶に残る、実にドラえもんらしいひみつ道具だと思います。
聞き間違いの結果が毎回ひどい方向へ転がるのも、この道具の個性です。普通の機械なら誤作動は単なる故障ですが、ねがい星の場合はギャグとして成立しています。願いを叶える力があるからこそ、間違えた時の被害も大きくなります。
それでも完全に役立たずとは言い切れません。大量の試行錯誤を重ね、言葉のクセを理解できれば、かなり強力な道具になる可能性があります。問題は、そこまで検証する前に周囲がめちゃくちゃになりそうなことです。
願いを叶える前に、まず言葉を正しく伝える。この当たり前の難しさを、ねがい星は大げさな失敗で見せてくれます。




