陸上せん水かん

陸上せん水かんは、地面の中を潜水艦のように進めるひみつ道具です。魚雷まで装備した本格仕様で、地中からの奇襲攻撃も可能な、陸上ボートシリーズの最終兵器です。

地中からの逆転劇

のびたが陸上モーターボートで道路を走り回っていると、ジャイアンとスネ夫にボートを横取りされてしまいました。ドラえもんに助けを求めると、今度は陸上せん水かんが登場します。二人が乗り込んで地面にもぐりこみ、静かに追跡を開始するのです。相手の真下に来たところで魚雷を発射。地面が盛り上がり、ジャイアンたちはあっという間に撃沈されてボートを取り返すことができました。

地中から攻撃するという発想は、陸上ボートや陸上モーターボートとはまったく異なる戦略的な使い方で、シリーズのなかでもとびきり面白い場面です。普段やられてばかりののびたがついに攻勢に出る場面として、読んでいて痛快な気分になります。地上では逃げ場があるものの、地中から来る攻撃は完全に予測不能で逃げようがないという点が、このシーンを一段引き立てています。次のページをめくったときに地面から攻撃が来るという展開は予測しにくく、驚きと笑いを同時に引き出すうまい構成です。ドラえもんのシリーズで被害者側が反撃するエピソードはいくつかありますが、地中という手段を使うのはこのエピソードだけではないでしょうか。

一話のなかで手漕ぎボートから始まりモーターボート、そして潜水艦と魚雷まで登場するエスカレートぶりは、ドラえもんの短編の典型的なパターンとしてよくできています。のびたとドラえもんが二人でチームを組んで動くシーンは珍しく、その共同作業がエピソードに別の面白さを加えています。道具がエスカレートするほどに物語も面白くなるという展開の中で、陸上せん水かんはその締めくくりを担う役割を持っています。ドラえもんが主体的に道具を使って状況を打開しようとする場面は読んでいて頼もしく、のびたとの息のあった連携がこのシーンの読みどころのひとつです。

地中を泳ぐように進む仕組み

陸上せん水かんが走るのは地面ですが、その動き方は完全に水上の潜水艦そのものです。堅い地面がまるで海中のように変化し、潜水艦がするするともぐっていきます。地表からは何も見えないため、相手には接近してくることすらわかりません。コミックでは望遠鏡が地面から突き出ているシーンが描かれており、潜望鏡のように状況を確認できる仕様になっているようです。水中の潜水艦と同じように音も立てずに忍び寄れるとすれば、奇襲兵器としての性能は抜群です。

地中を移動できる道具はドラえもんの世界にいくつか存在します。穴ほり機やモグラ手ぶくろなどが地面を掘り進む系統の道具であるのに対して、陸上せん水かんは掘るのではなく地中を泳ぐように移動します。掘り進む場合は後に穴が残りますが、陸上せん水かんが通った後は地面が元に戻っていると思われます。まるで液体の中を泳いでいるような感覚で地中移動できるとすれば、その体験は非常に独特なものになるでしょう。現代の地下鉄や地下工事の技術と比較しても、地面を掘らずに移動できるというのは次元が違う発想です。地中移動しながら外の状況を把握できる潜望鏡的な仕組みも、潜水艦の設計をそのまま陸上に転用した発想の面白さがあります。

コミックで描かれた陸上せん水かんの動作を見ると、本物の潜水艦のように見事に地面の中を進んでいます。地中を移動しながら外の状況を潜望鏡で確認するというのは、海の潜水艦そのままの操作感です。地表ではボートを走らせる音が聞こえているなかで、地中ではまったく音もなく接近してくる陸上せん水かん。その対比がエピソードのユーモアと緊迫感を同時に生み出しています。音も立てずに忍び寄って地面から魚雷を発射するというのは、陸上兵器としては規格外の性能です。

地面の下から魚雷が来る

魚雷の存在が陸上せん水かんをただの移動手段ではなく攻撃兵器に変えています。コミックの描写では地面がドカンと盛り上がってジャイアンたちが宙に浮いている場面が確認できます。威力がそれほど高くないのか、ジャイアンたちは吹き飛ばされながらも無事で、道具のコミカルな一面が出ています。子ども向けコミックらしく、攻撃してもケガはしないという暗黙のルールが保たれているのが微笑ましいところです。

のびたが道具の力を借りて逆転勝利を収めるというパターンはドラえもんの醍醐味ですが、地中からの奇襲という手段はなかでも特に豪快です。ジャイアンとスネ夫が地上でボートを楽しんでいる最中に、地面の下から突然攻撃が来るというのは、コミックで読んでいてもかなりのインパクトがあります。魚雷を持った陸上せん水かんに追いかけられた日には、ジャイアンでも逃げ場がないというのがこの道具の面白さです。陸上ボートシリーズの最終兵器というに相応しい、圧倒的な性能です。

防衛・探索の両面で使える

地中を自由に移動できる乗り物は、地下工事や探索の分野でも活躍できます。上下水道や電気・ガスなどのインフラ点検のために地面を掘り返すことなく内部を調査できるなら、道路工事の頻度を大幅に減らせます。救助活動の場面でも、倒壊した建物の地下に取り残された人を地中から救出するというシナリオが考えられます。地中探査の専門装置と組み合わせれば、考古学の発掘調査においても土を傷つけずに遺構を調べる夢の技術になりえます。

タケコプター空とぶじゅうたんが空を、モモボートが水上を担うなかで、陸上せん水かんは地中というまったく別の次元を開拓します。快速シューズスピードぐつが自分の足での移動を追求するのとは違い、乗り物として地中に潜るというアプローチはひみつ道具の中でも唯一無二のポジションです。地中移動の道具といえば陸上せん水かん、という印象を持つファンも多いでしょう。現実の潜水艦が海中での作戦に特化しているように、陸上せん水かんは陸地での隠密作戦に特化した道具として、ひみつ道具の中でも異色の存在感を放っています。

陸上ボートシリーズの締めくくりとして

陸上ボートシリーズのエピソードは、一本の話のなかで道具が三段階でエスカレートしていく構造が見事です。手漕ぎから始まってモーターボートになり、最終的に潜水艦と魚雷まで登場するのは、子どもの夢想する乗り物の系譜として完璧なラインナップといえます。攻撃を受けた側が反撃に転じ、地中に潜って奇襲するという逆転劇で締めくくられる構成は、藤子F不二雄先生の短編の組み立て方の巧みさを改めて感じさせます。一本の話にこれだけの道具と展開を詰め込みながら、読後感がすっきりしているのがドラえもんの短編の強さです。

陸上せん水かんは、シリーズの締めくくりを担うにふさわしい派手さと意外性を持った道具です。地底からの反撃という意表をついた展開が、このエピソードを単なる乗り物遊びの話から一段上の読み物に昇華させています。陸上ボートシリーズを読んだことがある人なら、あのラストシーンの痛快さはきっと覚えているはずです。道具のアイデアと物語の構成が一体となって読者を楽しませるという点で、陸上せん水かんのエピソードはドラえもんの短編の中でも特に完成度が高い一作です。地中という誰も思いつかない場所からの反撃が、このシリーズ全体の締めくくりとして完璧にはまっています。

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