意図的に世の中(といっても限られた範囲内)に流行を作り出すことができる『流行性ネコシャクシビールス』を紹介します。
流行を培養しよう
世の中の流行というものは、どこからともなく現れ、あっという間に世間に広まっていき、そしてしばらくするといずこかへと消え去ってしまう・・・それはまるで流行病のよう。
『流行性ネコシャクシビールス』は流行りを媒介させるタイプのビールスで、培養する際に流行らせたいものをビールスに聞かせながら育てることで「媒介する流行」を決定します。
ドラえもん6巻「流行性ネコシャクシビールス」P22:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
コミックでは、女性ファッションの流行の移り変わりの激しさに呆れ返ったのび太とドラえもんが、実験的に流行を作り出そうとするために使いました。
言葉の意味
複雑な名前の道具に聞こえますが、分解して考えるとなんとなくわかってきます。
- 流行性・・・流行りの
- ネコシャクシ・・・猫も杓子も(なんでもかんでも)
- ビールス・・・ウィルス
つまり、「なんでもかんでも流行させてしまうウィルス」という意味です。
ビールスはちょっと昔の表現ですね。
今はウィルスと言われています。
寿命はわずか1日
使い方によっては、マスコミや業界などが喜びそうな道具ですが、残念な事に、このビールスの寿命はわずか1日程度しかありません。
ドラえもん6巻「流行性ネコシャクシビールス」P27:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ビールスが寿命を迎えてしまえば、その流行も突如終わりを迎えるように出来ています。
調子に乗るドラえもんとのび太
最初のうちこそ女の子のスカートの長さを短くするなどのちょっとしたものでしたが、やがて服装だけを流行らすのに飽き始めた2人。
さらにヘンテコな流行を思いつき、それらをすべて実際に流行らせる悪戯を始めます。
やがて、ビールスが寿命を迎えてそのヘンテコな流行もなりを潜め、世の中も元通りになった頃、元から流行に疎かったのび太が遅れてビールスに侵されて、ヘンテコな流行の格好をして出かけていくのでした。
ちなみに、2人が流行らせた流行はというと、
- ボロ服を着る「古着ルック」
- 目の周りを黒くする「たぬきメイク」
- 出かける際にはゴミ箱を小脇に抱えて持ち歩く
- 出会いの挨拶は「せっせのよいよいよい」
- 別れの挨拶は「あかんべえ」
などなど、全部実行するとかなりシュールなものとなっています。
ドラえもん6巻「流行性ネコシャクシビールス」P26:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
遅れてビールスに取りつかれたのび太は、笑い者になっていました。
こんなヘンテコな格好でも、流行となればみんな普通にやってしまう・・・
そんな集団心理の恐ろしさと、流行に流されやすい人間の浅はかさを、ギャグマンガという体裁で描いた問題作・・・というのは少し考えすぎでしょうか(多分考えすぎです)。
9巻で再登場
そんな世間を振り回す流行性ネコシャクシビールスですが、コミック9巻の「王かんコレクション」で再登場します。
6巻ではファッションの流行だったのに対し、9巻での流行の標的は「コレクターズアイテム」です。
何でもないジュースの王冠のコレクションを流行らせるのにつかわれました。
こちらも最初は単なるコレクションで済んでいたのですが、どんどん流行がエスカレートし、しまいにはのび太が所有する希少価値のある王冠を200万円で買いたいというコレクターマニアまで現れる始末。
普通に考えれば単なるゴミでしかないジュースの王冠でも、コレクションが流行して集める人間が増えると、とんでもない価値が付いていくという、人間のコレクター心理を見事に突いています。
儚さと隣合わせのひみつ道具
9巻では、ビールスの寿命が尽きて効果が消える瞬間も描かれています。
大金を出しででも王冠を欲しがったコレクターは、突如付き物が落ちたように「なんでこんなものを欲しがったんだ?」と、それまで喉から手が出るほど欲しがっていた王冠を、単なるゴミとして捨ててしまうのです。
その様子は、「現実でも流行が終わる瞬間はこうなのかな」といささか寂しい気分になってきます。
きっと4巻のファッション関連の登場人物たちも、ビールスの寿命の終わりとともに、ハッと我に返っていたことでしょう。