ツモリガン

撃たれた人を眠らせ、やろうとしていたことを夢の中で済ませた気分にしてくれる銃型のひみつ道具が「ツモリガン」です。現実は変わらないのに気持ちだけはすっきりするという、かなりドラえもんらしい解決方法を持っています。

やったつもりで満足できる道具

コミック20巻のエピソードでは、ジャイアンに殴られそうになったのびたがドラえもんに助けを求めます。そこで出てくるのがツモリガンです。撃たれた相手は眠りに落ち、やろうとしていたことを夢の中で実行します。ジャイアンなら、のびたを殴った夢を見て、実際には手を出さずに気持ちだけは満足するわけです。

この仕組みは、ただ眠らせるだけの道具とは違います。グッスリまくらが睡眠に入らせる道具だとすれば、ツモリガンは眠っている間に目的の体験を完了させる道具です。眠りを利用して、怒りや欲求を安全に処理するところが面白いです。

ツモリガンの効果
夢で叶えられる希望

ドラえもん20巻 ツモリガン P107:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

のびたはこの道具の便利さを知ると、都合の悪いことを次々とツモリガンで片づけようとします。ジャイアンに殴られる危機だけでなく、相手の要求や面倒な約束も、夢の中で済ませたことにしてしまえば現実では楽に逃げられる。発想としてはかなりずるいですが、のびたがそう考えるのもわからなくはありません。

現実は変わらないという限界

ツモリガンの本質的な限界は、現実の問題が解決するわけではないことです。ジャイアンは殴った気分になって満足しますが、のびたが強くなったわけではありません。宿題が終わるわけでも、約束を果たしたことになるわけでもありません。あくまで変わるのは、撃たれた人の気持ちです。

ただし、気持ちが変わることには大きな意味があります。怒りが強い時、人は実際に行動してしまうことがあります。そこでツモリガンを使えば、相手は夢の中で発散し、現実では手を出さずに済みます。これはかなり平和的な使い方です。ソーナルじょうが思い込みによって世界の見え方を変える道具なら、ツモリガンは夢の中で満足感を作り、現実の行動を変える道具です。

現代でいうイメージトレーニングにも近いところがあります。スポーツ選手が成功する場面を頭の中で繰り返すように、ツモリガンは夢の中で行動を済ませた感覚を作ります。怒りの発散、緊張の軽減、欲求の整理など、使い方によっては心を落ち着かせる道具にもなりそうです。

お腹いっぱいどら焼きを食べる夢を見るドラえもん
これだけのどら焼きを目の前にして笑顔で食べるドラえもんの凄さ

ドラえもん20巻 ツモリガン P110:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ドラえもんの先手がうまい

話の終盤では、のびたがドラえもんに焼きをプレゼントする約束までツモリガンで済ませようとします。ところがドラえもんは、のびたが撃つより先にツモリガンを撃ち、のびたに焼きを買った夢を見せてしまいます。のびたは約束を果たした気分になり、ドラえもんは実際の出費を防ぐ形になります。

ここで面白いのは、ドラえもんの反応速度です。のびたは射撃が得意なキャラクターとして知られています。空間ひんまげテープなどとは方向が違いますが、のびたの射撃センスは大長編でも何度も描かれます。そののびたより先に撃つドラえもんは、かなり器用な動きをしています。丸い手でどうやって引き金を引いたのかも含めて、妙に印象に残る場面です。

ドラえもんの射撃の腕前
実はかなりすごいことを成し遂げているドラえもんである

ドラえもん20巻 ツモリガン P110:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

満足感をどう使うか

ツモリガンは、悪用すれば何でもやったつもりで済ませる逃げ道になります。のびたの使い方はまさにそれで、面倒なことから逃げるために使っています。しかし、満足感をうまく作るという発想そのものは悪くありません。

この意味では、夢を使って現実の気持ちを整える気ままに夢見る機や、起きたまま夢のような体験をする立ちユメぼうとも近いテーマを持っています。夢は現実ではありませんが、本人の感情には確かに影響します。ツモリガンはその性質を、かなり直接的に利用した道具です。

現実を変えずに、本人の気分を先に変える。そこには限界もありますが、争いを避けたり、衝動を抑えたりする使い方なら、かなり役に立ちます。怒っている相手に暴力を振るわせず、夢の中だけで発散させる。買い物の衝動が強い人に、夢の中で買い物をした満足感を味わわせる。緊張している人に、成功した場面を夢で体験させる。どれも現実の成果ではありませんが、気持ちを落ち着かせる入り口にはなります。

ただし、のびたのように何でもツモリガンで済ませようとすると、現実から逃げる癖がつきます。嫌な相手と話すこと、約束を守ること、努力することまで夢で片づけようとすれば、現実の力は育ちません。ツモリガンは心を軽くする道具であって、人生の代わりをしてくれる道具ではない。その境目を間違えないところに、この道具の難しさがあります。

のびたがずるさと、ドラえもんのしたたかさが両方見える、切れ味のある道具です。便利でも、使う人のずるさも賢さもはっきり出ます。ひみつ道具の扱い方そのものを見せているような一本です。

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