ウラシマキャンデー

ウラシマキャンデーは、親切にした相手から必ず恩返しを受けられる食べ物系のひみつ道具です。昔話の浦島太郎をそのままドラえもん流にひねった道具で、いいことをしたはずなのに、効き目が強すぎて本人が困ってしまうところまで含めて印象に残ります。

本編での使われ方

この道具が登場するのは、てんとう虫コミックス9巻のウラシマキャンデーです。のび太は人がいいので、友だちからも家族からも雑用を頼まれがちです。頼まれたことをこなしても感謝されない、むしろ当然のように扱われるという流れは、のび太の情けなさだけでなく、周囲の遠慮のなさもよく出ています。そこでドラミちゃんが取り出したのが、玉手箱のようなケースに入ったウラシマキャンデーでした。

使い方は単純で、キャンデーを1粒なめてから誰かに親切にするだけです。すると相手は必ず恩返しをしたくなります。ドラえもんの食べ物系道具には、食べるだけで効果が出る気軽さがありますが、ウラシマキャンデーはその中でも心理に直接作用するタイプです。食べ物としての手軽さと、人の感情を動かす強制力が同居しているため、ちょっとした善行が一気に大げさな出来事へ膨らんでいきます。

最初に大きな効果が出るのは、中年女性の荷物をのび太が受け止める場面です。荷物の中には高価な瓶が入っており、割れるところを助けられた女性は、のび太にお礼をしたいと自宅へ招きます。ここまでは普通の親切話にも見えますが、ウラシマキャンデーの怖さは、その後のお礼が自然な範囲で止まらないところにあります。

効果な瓶を守るのびた
ナイスキャッチだが、人としてそれでいいのか?

ドラえもん9巻「ウラシマキャンデー」P80:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

家に招かれたのび太は、料理を出され、歓待され、まるで竜宮城に連れていかれた浦島太郎のような扱いを受けます。道具名が昔話をなぞっているだけでなく、物語の展開まで昔話の構造に寄せているのが面白いところです。親切をした少年が別世界のような場所で厚遇される一方、帰宅が遅くなれば現実の家ではママが怒っている。このごほうびとしっぺ返しの二重構造が、短いエピソードの中できれいにまとまっています。

効き目が強すぎるのが難点

ウラシマキャンデーの一番の問題は、恩返しの気持ちにブレーキがかからないことです。瓶を守ってもらった女性が感謝するのは自然ですが、のび太をもてなす行動はどんどん過剰になります。もっと食べてほしい、まだ帰らないでほしい、どうにか引き止めたいという方向へ感謝が暴走していき、のび太本人も効き目の強さに困り始めます。

ここでうまいのは、道具そのものが悪意を生むわけではない点です。相手はのび太を苦しめたいのではなく、あくまでお礼をしたいだけです。それなのに、結果として帰れない、食べきれない、家で怒られるという困った状況が生まれる。ドラえもんのひみつ道具には、願いをかなえるほど現実の面倒が増えるものが多くありますが、ウラシマキャンデーは善意まで制御不能になるところが独特です。

ウラシマキャンデーの恐ろしい効き目
発想が恐ろしい親子

ドラえもん9巻「ウラシマキャンデー」P84:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

似た方向の道具として考えると、食べ物の力で他者との関係を変えるおすそわけガムや、動物との恩返しを物語として見せるすて犬ダンゴにも近さがあります。ただし、おすそわけガムは味覚の共有、すて犬ダンゴは拾われる側と拾う側の関係を作る道具です。ウラシマキャンデーは、親切に対する感謝だけを強制的に引き出すため、使う人の行動は善行でも、相手の反応にはかなり無理が出ます。

人間以外にもお礼をされる

ウラシマキャンデーの効果がさらに強烈に見えるのは、人間以外にも恩返しが発生するところです。犬や猫ならまだ昔話的なかわいさがありますが、本編ではゴキブリホイホイから逃がしたゴキブリまでのび太にお礼をしに来ます。助けた対象が生き物なら何でも対象になるらしく、キャンデーの効き目が人間社会の礼儀に限られていないことがわかります。

この場面は、帰宅が遅くなったのび太をママが怒っている状況と重なります。のび太としては親切をしただけなのに、その結果として家に帰るのが遅くなり、さらにゴキブリの恩返しまで呼び込んでしまう。お礼をされることが必ずしも幸運ではない、というひねりがよく出ています。ドラミちゃんはゴキブリが苦手な設定があるはずなのに、この話ではあまり怖がっていないように見えるのも、読み返すと少し気になるポイントです。

ゴキブリが苦手なはずのドラミちゃん
いくらなんでもゴキブリはちょっと無理かも・・・

ドラえもん9巻「ウラシマキャンデー」P86:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

動物や生き物に関係する食べ物道具として見ると、ウラシマキャンデーは桃太郎印のキビダンゴとも対照的です。桃太郎印のキビダンゴは食べさせた相手を味方につける道具ですが、ウラシマキャンデーは自分が食べ、相手に親切をすることで効果が始まります。相手を従わせるのではなく、相手の中に恩を返したい気持ちを発生させる。そのぶん表面上は穏やかですが、強制力の方向が見えにくいぶん、むしろ怖さもあります。

昔話モチーフとしての面白さ

ウラシマキャンデーは、名前もケースの形も浦島太郎を連想させる道具です。ドラえもんでは昔話をモチーフにした道具がいくつも登場しますが、この道具は物語の教訓までずらして使っているのがうまいところです。浦島太郎では助けた亀への恩返しとして竜宮城へ招かれますが、最終的には時間の経過と玉手箱によって取り返しのつかない結末へ向かいます。ウラシマキャンデーでも、親切がきっかけで歓待を受ける一方、帰宅が遅くなることで日常側の問題が膨らんでいきます。

同じ食べ物系でも、ようろうおつまみは昔話の養老の滝を思わせる発想で、食べ物と伝承の結びつきが強い道具です。チューイングピザ味のもとのもとのように食べる楽しさを広げる道具と比べると、ウラシマキャンデーは味そのものよりも、食べた後に発生する人間関係の変化が主役です。キャンデーという子ども向けの軽い形をしているのに、扱っているテーマは感謝、善意、見返りという意外に重いものなんですよね。

もしも現実に存在していたら

現実にウラシマキャンデーがあったら、最初はかなり便利に見えるはずです。落とし物を拾う、困っている人を助ける、ちょっとした手伝いをするだけで、相手が必ず感謝を返してくれる。報われない親切に疲れている人ほど、一度は使ってみたくなる道具かもしれません。のび太がこの道具に飛びつくのも、普段の扱われ方を考えると無理はありません。

ただ、感謝は本来、相手の中から自然に出てくるからうれしいものです。道具によって必ずお礼をさせるとなると、親切が親切のままでいられるかは怪しくなります。しかもウラシマキャンデーはお礼の大きさを調整できないため、軽い手助けにも過剰な恩返しが返ってくる可能性があります。相手の生活や判断まで揺らしてしまうなら、いいことをした側にも責任が生まれてしまいます。

だからこそ、この道具は単なるごほうび発生アイテムではなく、のび太らしい善意と欲の境目を映す道具として面白いのだと思います。感謝されたい気持ちは自然ですが、感謝を強制すると急に居心地が悪くなる。しかも相手が喜んでいるほど、使った側は止めにくくなります。ウラシマキャンデーは、その微妙なズレを昔話の形に乗せて見せてくれる、短い登場回ながらかなり味わい深いひみつ道具です。

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