ウソ800

おおっぴらにウソをついても、それが実現すればウソではありません。そんな便利なひみつ道具、ウソ800の紹介です。読み方はうそえいとおおではなくうそえいとおーおーです。

サヨナラしたはずのドラえもんが再び?

コミック6巻のさよならドラえもんで未来に帰ったドラえもん。ドラえもんのことが忘れられずにいるのびたに、ジャイアンとスネ夫がエイプリルフールのウソをつきます。ドラえもんが帰ってきたと聞かされたのび太が部屋へ走って戻る場面は、読んでいて胸が痛くなります。それほどのび太がドラえもんのことを好きだということが滲み出てくるシーンです。当然そこにドラえもんはいないわけで、からかわれたと気づいたのび太の悔しさと悲しさが伝わってきます。

このエピソードが収録されているのはコミック7巻の帰ってきたドラえもんです。6巻の別れのエピソードと対になっており、読み続けていたファンにとっては感慨深い構成になっています。さよならドラえもんを読んだ直後だからこそ、このエピソードに込められた感情がより深く刺さるわけです。

エイプリルフールで騙されるのびた
あっけらかんとするのびたの表情が笑いもの

ドラえもん7巻「帰ってきたドラえもん」P10:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

驚異のウソ800

ジャイアンとスネ夫に復讐を誓うのびたは、ドラえもんが最後に残したウソ800を飲み干します。ウソ800を飲むと、言ったことがすべてウソになる効果があります。

  • 天気は晴れだ → 大雨が降り始める
  • 母ちゃんに褒められる → こっぴどく叱られる

叶って欲しいことと逆のことをいえば、自ずとそれが実現するわけです。うそ発見機が嘘をつくことを戒める道具なら、ウソ800は嘘そのものを武器として使う発想の道具です。使いこなすためには、目標に対して常に反対の言葉を選ぶという逆算的な思考が必要で、咄嗟の場面ではなかなか難しい。それをのびたが自然にやってのけた点は、普段の彼のイメージからするとかなり機転の利いた行動です。

実際のコミックでは、のび太がウソ800を使ってジャイアンやスネ夫に復讐するシーンがテンポよく描かれており、読んでいて痛快な気分になります。言った言葉が全部逆になるという設定のシンプルさが、漫画的な演出と相性抜群なんですよね。

ウソ800の効果
特大級のスコール

ドラえもん7巻「帰ってきたドラえもん」P13:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

帰ってきたドラえもん

のびたが部屋に帰ると、なぜかドラえもんの姿があります。

ドラえもんと二度と会えないのびた
悲しみに打ちひしがれるのびた

ドラえもん7巻「帰ってきたドラえもん」P15:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

のびたが何気なくつぶやいたドラとは二度と帰ってこないという言葉。ウソ800を飲んだ状態で言ったため、ドラえもんが現代に戻ることになりました。

かえってきたドラえもん
感動の再会。ドラえもんの優しい目に注目したい

ドラえもん7巻「帰ってきたドラえもん」P16:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

コミックを読んでいるファンにとって、このシーンは思わず胸が熱くなる名場面です。のびたが何気なくつぶやいた一言がウソ800の効果で実現するという、作者の仕掛けが秀逸です。しかもそれがのび太の意図したことではなく、感情のままに出た言葉だったという点が、この場面に深みを与えています。ドラえもんへの想いがあまりにも純粋だったからこそ、言葉が現実になったような、そんな読み方もできます。ウソ800という道具が、笑いのための道具として登場しながら、最後には感動の演出装置として機能している構造は見事です。

使い方によっては世界をも手に入れることができる

使い方によってウソ800は物凄く便利な道具である反面、恐ろしい力を持っています。人間の運命すら変えられるわけですから。たとえば試験で満点を取れなかったという言葉を発せば、実際には満点を取ったことになるかもしれない。無意識に発した言葉が予期せぬ方向に現実を動かすリスクも常にあります。ウソ800を飲んでいる状態では、何気ない愚痴や冗談ですら現実化する可能性があるため、口を開くたびに慎重に言葉を選ばなければなりません。

ドラえもんがなぜウソ800を最後の道具としてのびたに遺したのか。そのウソホントうそつき機のように安易に使われる道具ではなく、苦しめた時だけ自分の足で立てというメッセージがこもっていたのでしょう。道具を置いていったというより、最後の贈り物として選んだ感覚があります。ドラえもんがのびたのことをどれほど思っていたかが伝わってくる、この選択の重さがたまりません。

ウソ800を飲めば望む結果を手に入れることができる。しかし、その結果を得るためには現実と逆のことを言い続ける必要があります。もしもボックスのように世界そのものを変える力こそないものの、個人の人生を劇的に変える力を持つ点では、ドラえもんのひみつ道具の中でも特別な位置を占めています。

面白いのは、ウソ800はのびたが復讐のために使い始めたにもかかわらず、その効果が巡り巡って最高の結果をもたらしたことです。道具を使う意図がどうあれ、ウソ800がのびたにとっての幸福につながったという結末は、ドラえもんという作品らしい温かさに満ちています。帰ってきたドラえもんのエピソードは、単純なひみつ道具の話ではなく、のびたとドラえもんの絆を語る物語として読者の記憶に残り続けます。

意図せず発した言葉がドラえもんを呼び戻すという展開には、ウソ800の効果以上に、のびたの真っ直ぐな気持ちが働いていたのかもしれません。そういう余韻のある終わり方が、ドラえもんの短編の中でも特に好きな回だという人が多いのも納得です。

ウソ800の仕組みを考える

ウソ800という道具の設定をよく考えると、実はかなり精妙な仕組みを持っています。単純に言葉を逆にするだけではなく、発言した内容の意図を汲んで現実を変えているように見えます。たとえば天気は晴れだと言えば大雨が降りますが、天気は良くないと言ってもそれが晴れになるかどうかは不明です。どの言葉がウソとして処理されるかの基準が道具側にあるということで、単純なルールではなさそうです。

コミックの中ではそこまで細かく描かれていませんが、ドラえもんの道具にはこうした設定の曖昧さがあることが多く、それが想像の余地を生んでいます。ウソ800で本当に何でも逆になるとしたら、かなり使い勝手が悪い道具のはずです。飲んだ状態で空腹だと言えば満腹になるのか、疲れたと言えば元気になるのか。考え始めるとキリがなく、それがまたこの道具の面白さでもあります。

ひみつ道具には使い方次第で強力な効果を持つものが多く、そのウソホントのように発言内容を現実に変える系の道具はウソ800と似た性格を持っています。どちらも言葉と現実の関係を逆手に取った発想で、藤子F不二雄が言語と認識の関係に強い関心を持っていたことが伝わってきます。

ウソ800は単発のエピソードに登場しただけの道具ですが、帰ってきたドラえもんという感動的な話の核となったことで、多くのファンの記憶に刻まれています。道具として繰り返し使われることがなかったからこそ、あのエピソードの中だけに輝く特別な存在感があります。

ドラえもんの道具の中には、一度しか登場しないがゆえに印象的な道具が多くあります。ウソ800もそのひとつで、道具の機能よりもそれが使われた状況と感情が先に思い出されるという点では、ひみつ道具として異色の存在感を放っています。さよならドラえもんと帰ってきたドラえもんはセットで読んでこそ、その感動が完成するエピソードです。ドラえもんをまだ読んだことがない人にこそ、まずこの2話を手に取ってほしい気持ちになります。

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