チャンピオングローブ

チャンピオングローブは、はめてケンカをすると絶対に相手に勝つことができるボクシンググローブ型のひみつ道具です。内蔵コンピューターが相手の動きをリアルタイムで読み取り、最も効果的なパンチを自動的に繰り出す仕組みになっています。使い手の腕前や体力は一切関係なく、誰がはめても必ず勝利できます。

いじめられた仕返しをしたい

いつものようにジャイアンとスネ夫にいじめられたのび太は、今度こそ仕返しをしようと考えます。ドラえもんはチャンピオングローブを取り出してこれをはめてケンカすれば絶対に勝てると勧めますが、のび太はグローブをはめて戦うこと自体が面倒くさいと即座に断ってしまいます。

グローブをはめるだけで勝てる、これ以上ラクな道具はないはずなのに、それでも面倒という発想には、ドラえもんもあきれるほかありません。のび太にとってはグローブをはめて殴り合うことすら手間なのです。これだけシンプルで強力な道具を前にして面倒くさいと言える人間は、世界広しといえどのび太くらいのものでしょう。

結局代わりに選ばれたのがペンシルミサイルでした。ボタンを押すだけで発射される、より手軽な道具に乗り換えた形です。ところがそのミサイルの存在がスネ夫にバレてしまい、事態は思わぬ方向に転がっていきます。チャンピオングローブを断ったことがその後の騒動のすべての引き金になっているわけで、面倒くさがりがいかに高くつくかを示す典型的な例です。

チャンピオングローブ
面倒くさがり屋なのび太

出典:ドラえもんプラス5巻「ペンシルミサイルと自動しかえしレーダー」P155:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

勝てないケンカはありません

チャンピオングローブをはめてケンカをすれば、必ず相手に勝つことができます。内蔵コンピューターが相手の動きをリアルタイムで分析し、最も効果的なパンチを自動的に選んで放つ仕組みになっています。

ジャイアンのような体格差がある相手でも、コンピューターが補正してくれるため問題ありません。普段から格闘技や体を鍛えた経験がなくても、はめた瞬間からプロ級の動きが出せるようになります。のび太のように運動が苦手な子でも、このグローブさえあれば一切の実力差を無効化できるのです。

ドラえもんのひみつ道具の中でも、勝負の結果そのものを保証するという点でかなり珍しい部類に入ります。空気ピストルペンシルミサイルのような攻撃系道具は相手にダメージを与える手段を提供しますが、それでも戦いの勝敗は状況次第です。チャンピオングローブは違います。どんな状況でも必ず勝てる、この絶対性が最大の特徴です。

一方で、相手が同じグローブをはめていたらどうなるのかという疑問も湧いてきます。コミック43巻では実際に似たシチュエーションを想定した道具が登場しており、そちらについては後述します。

チャンピオングローブ
渋い顔が印象的だ

出典:ドラえもんプラス5巻「ペンシルミサイルと自動しかえしレーダー」P155:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

あいこグローブとの違い

コミック43巻にはあいこグローブというひみつ道具が登場しました。

見た目はチャンピオングローブとそっくりですが、基本機能がまったく異なります。チャンピオングローブは使った側が必ず勝てるのに対し、あいこグローブははめた双方の強さが同等になる仕組みです。お互いにあいこグローブをはめて戦うと、単純な力の差はなくなり、あとは気力と根性の勝負になります。勝ちたい気持ちが強いほうが勝つという、ある意味でガチンコ中のガチンコです。

チャンピオングローブは面倒くさがりでもラクに勝ちたいという需要に応えた道具ですが、あいこグローブは実力差をなくして公平に戦いたいという場面に向いています。のび太のようにそもそもやる気がない場合は、手っ取り早く勝負を終わらせられるチャンピオングローブのほうが向いているといえます。

ただし、チャンピオングローブは必ず勝てるゆえに相手へのリスクも大きく、ジャイアンを相手に全力で使えば大怪我をさせることになりかねません。あいこグローブのほうが倫理的には穏当な道具といえるかもしれません。また、チャンピオングローブを相手が持っていた場合、コンピューター同士がぶつかり合うことになり、どういう結果になるのかはなかなか興味深いところです。同じグローブ同士なら引き分けになるのか、それとも先にはめた側が有利なのか、コミックでは描かれていないだけに想像が膨らみます。

のび太の悪い面

ドラえもんがあきれていたように、のび太は基本的に面倒くさがり屋です。楽して勝ちたい、苦労したくないという気持ちが常に先立ち、いじめられるたびに仕返しすること自体を面倒と感じます。

そのためお手軽に勝てる道具が欲しいという発想になるのですが、その結果として選んだペンシルミサイルが事態をさらに悪化させていきます。チャンピオングローブを素直に使っていれば、その後のミサイル合戦も自動しかえしレーダーの誤爆騒ぎも起きなかった可能性が高いのです。

実際のところ、のび太がいじめられる状況の多くは、彼自身の軽率な発言や行動がきっかけになっていることも少なくありません。チャンピオングローブで仕返しを果たしても、根本的な問題が解決するわけではない点を考えると、道具に頼り続けることの限界も見えてきます。ジャイアンやスネ夫との関係を根本から変えるためには、道具ではなく向き合い方そのものを変える必要があるのかもしれません。

ただ、ジャイアンやスネ夫のいじめに悩む姿はドラえもんを読む子供たちの共感を呼んでおり、そこに寄り添うように道具が登場する展開こそが、このシリーズの大きな魅力のひとつです。理屈では正しいことがわかっていても、それができないのが子供であり人間であり、だからこそドラえもんが必要とされるのです。

武器系の道具として比較すると、パンチ銃は相手にパンチを飛ばして攻撃する道具、空気ピストルは空気の塊を発射する道具です。どちらも攻撃手段を与えるという点で共通していますが、チャンピオングローブは格闘戦の結果を保証するという点で一線を画しています。攻撃手段ではなく、勝利そのものを手渡してくれる道具といえます。

他にも、小型まずい銃ホームミサイルのような派手な武器系道具も存在しますが、チャンピオングローブはボクシングの枠内で戦う分、まだスポーツの文脈に収まっています。破壊的な兵器を持ち出すよりもずっと穏やかな解決策のはずなのに、それすら面倒と感じるのび太の怠惰ぶりが、このエピソードの笑いを生んでいます。

いじめに対抗したいというシンプルな動機から生まれた道具ですが、のび太の怠惰な性格と組み合わさることで独特のコミカルな展開を生み、さらに後続のミサイル騒ぎへとつながっていきます。チャンピオングローブそのものはシンプルな道具ですが、のび太がそれを使わなかったことで物語が広がるという、作劇上の重要な役割を担っています。

もしものび太がチャンピオングローブを素直に受け取り、使っていたとしたら、このエピソードはジャイアンに一発お見舞いしてすっきり終わる短い話になっていたでしょう。しかし面倒くさいと断ったことで、ペンシルミサイル、自動しかえしレーダー、誤爆騒ぎと話がどんどん膨らんでいきます。のび太の面倒くさがりは、ある意味でこの話全体のエンジンになっているのです。ひみつ道具の紹介記事として見るなら、チャンピオングローブは使われなかった道具として記憶に残る、珍しい存在でもあります。

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