影ふみオイルは、相手の影に垂らすだけでその人に直接ダメージを与えられる、地味ながらかなり物騒なひみつ道具です。
ジャイアンを影から攻撃する作戦
ドラえもんカラー作品集3巻に収録された「影ふみオイル」の話では、ジャイアンにいつも痛い目に遭わされているのび太が、どうしても仕返しをしたくてたまらないという状況から始まります。ただ、正面から向かっていくのは怖くて無理です。のび太にとってジャイアンは絶対に正攻法では勝てない相手であることは、コミックを読んでいれば誰でも分かります。
そこでドラえもんが取り出したのがこの道具で、ジャイアンの影に向けてオイルを1滴垂らし、離れた場所から石を投げたり棒で叩いたりしてちくちく攻撃するという作戦を提案します。ポイントは遠隔攻撃ができるという点で、ジャイアンに直接手出しするリスクをゼロにしながらダメージを与えられるというのは理にかなった作戦です。
こっそりダメージを与えられる ドラえもんカラー3巻「影ふみオイル」P69:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ジャイアンは意味不明な攻撃を受けながら不信感を募らせ、その原因がのび太だとバレてしまいます。危機一髪と思ったそのとき、車がジャイアンの影を踏み、その場から逃げることができたのでした。結果的には計画通りには進まなかったものの、偶然の産物とはいえ車がジャイアンの影を踏んだことで最大のダメージを与えるという皮肉な展開になりました。
影を攻撃対象にするという発想
この道具の面白いところは、攻撃したい相手の影に1滴垂らすだけで準備完了という手軽さです。あとは影に対して石を投げたり棒で殴ったりすれば、そのダメージがそっくり本人に伝わります。オイルさえ用意できれば、あとは普通の石や棒といった身近なものを使えるので道具としての敷居が低いのも特徴です。
離れた場所から攻撃できるので、ジャイアン相手でも理論上は安全なはず……だったのですが、のび太の場合はバレてしまうところが何ともいえない味です。それでも影を利用した攻撃というアイデアは、コミックをよく読んでいると非常に斬新に感じます。普段何気なく見ている影というものに着目して道具に昇華させた発想は、藤子・F・不二雄先生ならではのセンスが光ります。
影を使って相手に干渉するという発想は、民俗学や呪術の世界にも通じます。たとえば呪いの藁人形のような概念を、未来の科学技術でオイルという形に落とし込んだのが影ふみオイルです。実際、影に石をぶつけたダメージが本人に伝わるという設定は、科学的な説明がつかない部分も多いのですが、ドラえもんのひみつ道具らしいアナログな不思議さがあります。
かくれマントのように相手の視野から完全に消える方法と組み合わせれば、もう少しスマートな立ち回りができたかもしれません。身を隠した状態で影を攻撃し続けるというのは、のび太には少々高度すぎる作戦ですが、理論上は完璧な嫌がらせ手段になります。
光源の位置関係が重要な道具
影を攻撃するわけですから、太陽や電灯など光源の位置と本人の位置関係をよく把握しておく必要があります。曇った日は使えませんし、急に建物の影に入られると攻撃が効かなくなってしまいます。晴れた日の屋外でないと本来の威力が発揮できないという制約は、使い勝手の面では結構な弱点です。
これは重傷だろう・・・ ドラえもんカラー3巻「影ふみオイル」P73:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
上のコマのようにジャイアンは影を車に轢かれてしまったわけですが、これはジャイアン自身が車に轢かれたのと同じダメージがあるはずなのです。しかも車はブレーキもかけずフルスピードで駆け抜けるわけですから、ジャイアンはかなりの重傷であると見るべきです。コミックの絵ではジャイアンがぐるぐる目になっている程度の描写ですが、現実的に考えるとあの状況は相当に深刻な事態です。
影に与えるダメージがどの程度本人に伝わるかという比率の問題も気になります。影ふみという子供の遊びを応用した発想ですが、車のスピードや石の重さで与えるダメージが変わるとしたら、使い方次第では本当に危険な道具になってしまいます。実際の効果は笑えないレベルです。
現代社会では特に使いどころを選ぶ道具
東京のように人通りが多い場所でこの道具を使おうものなら、他人に影を踏まれまくって外出できなくなるぐらい危険なひみつ道具です。人ごみの中で影に石を投げようとしても、誰かが踏んでいればそちらにダメージが飛んでしまいます。通りがかりの人が影を踏むだけで本人にダメージが来るとしたら、オイルを垂らされた人は外をまともに歩けなくなります。
影ふみオイルの対象は一人の影に限定されているのか、複数の影に同時に使えるのかも気になるところです。理論上は大勢の人の影にオイルを垂らせば一斉攻撃ができることになりますが、それはさすがに恐ろしい使い方です。1本のオイルで何回分使えるのかという問題もあり、消耗品なのか無限に使えるのかで実用性が大きく変わります。
似たような影を使う道具として、影を実体化させる影ぶんちんと影実体化液もありますが、あちらは影を物理的なものに変える発想で方向性が異なります。影ふみオイルは影から本人へのダメージ伝達という一方通行の仕組みなのに対し、影実体化液は影そのものを独立した存在に変えるというアプローチです。どちらも影というものに別の意味を持たせているのが面白いなと感じます。
かくれマントやとうめいマントなど姿を消す道具を使って身を隠しつつ影ふみオイルを活用するというのが、のび太の理想的な使い方だったかもしれませんが、それを実行できないのがのび太らしいところでもあります。道具の相性自体は非常に良く、透明になった状態で影だけを攻撃し続けるというのは理論上かなり強力な戦術です。
影というものへの独特な視点
この道具が面白いのは、影というものを単なる光の遮断現象としてではなく、本人と繋がった存在として捉えているところです。影を踏むと本人に伝わるという民話的・呪術的な発想をそのままひみつ道具に落とし込んでいます。世界各地の民話や伝承に影を切り取る魔物や影を踏んではいけないという禁忌の話がありますが、影ふみオイルはそういった人類の古い恐怖心を道具として具現化したような存在です。
コミックをよく読んでいる人なら気づくかもしれませんが、ドラえもんの道具にはかげとりもちのような影を物理的に切り離す道具も登場します。影というものがさまざまな角度で道具のテーマになっているのは、藤子・F・不二雄先生の発想の豊かさを感じます。影を使った道具だけでも複数あるというのは、それだけ影というものが人の想像力をかき立てる存在であることの証明でもあります。
地味な存在ですが、実はかなり恐ろしいオイルと見るべきでしょう。石ころぼうしのように誰にも気づかれない状態で使えば最強の嫌がらせ道具になり得るのがこの影ふみオイルの本当の怖さかもしれません。ジャイアンへの仕返し道具として登場しましたが、使い方次第では非常に危険な側面を持つ道具でもあります。それでもドラえもんの世界では笑えるエピソードとして描かれているのが、このシリーズならではの絶妙なバランス感覚です。
影ふみオイルの効果を洗い流す方法は作中では説明されていません。一度塗られたら永続的に効果が続くのか、それとも時間が経てば自然に消えるのかという点は重要です。もし効果が永続するとすれば、道具として非常に危険な部類に入ります。このオイルを悪意を持って使った場合、相手が影を踏まれるたびにダメージを受け続けるという状況が生まれてしまいます。
一方で、影ふみオイルが守りに使えないかという発想もあります。自分の影にオイルを垂らしておけば、影を踏もうとした相手が逆にダメージを受けるというトラップとして機能するかもしれません。自分の影を踏んでくる相手に対してのカウンターとして使えるとしたら、攻撃だけでなく防衛の手段にもなります。ただし自分の影を踏んでくる人がそもそも少ないという現実的な問題はありますが、のび太の日常を考えると影を踏まれる機会は意外と多そうです。




