陸上モーターボート

陸上モーターボートは、陸の上をモーターボートのように走り回れるひみつ道具です。手でオールを漕ぐ陸上ボートのひと段上のグレードで、エンジン動力で地面を疾走します。

手漕ぎでは物足りないのびた

のびたがスネ夫にあこがれてボートに乗りたいと思ったのがきっかけです。スネ夫のパパは本物のモーターボートを持っていて、スネ夫はそれが自慢で仕方がありませんでした。のびたは対抗心からドラえもんに頼んで陸上ボートを出してもらいましたが、手漕ぎでは速度的にどうしても見劣りしてしまいます。そこでドラえもんにさらなる道具を追加で要求し、登場したのが陸上モーターボートでした。

陸上モーターボート
空き地で出すスピードではない

ドラえもんカラー2巻「陸上ボート」P147:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

エンジン音を響かせながら地面を進む様子は、見た目のインパクトが絶大です。本物のモーターボートと同じように水しぶきならぬ土煙を上げながら加速するわけで、見ているほうは困惑するしかありません。地上でこれをやられると通行人の迷惑になりますし、そもそも車と衝突でもしたら大変なことになります。コミックの中でも道路を走り回るのびたの姿にジャイアンとスネ夫がボートを横取りして乗り回すシーンが描かれていて、その後ドラえもんが陸上せん水かんで地中から追撃して取り返すという展開になります。道具がエスカレートしていく様子がドラえもんらしい流れになっていて、読んでいて楽しいエピソードです。一話の中でひみつ道具が複数登場し、それぞれが物語に絡んでいく構成は、このシリーズならではの楽しみ方のひとつです。

のびたでも操縦できる

陸上モーターボートが走るのは地面ですが、その動き方は完全に水上のモーターボートそのものです。堅い地面が水面のようになり、ボートが波を蹴るように滑走します。乗り心地がどんな感じなのかは想像するしかありませんが、地面の硬さはそのまま振動として伝わってきそうです。水面の場合はある程度クッションがあるので、陸上版のほうが乗り心地はかなり荒々しいかもしれません。それでものびたたちが楽しそうに乗り回している描写からすると、振動の問題はひみつ道具の力で解決されているのでしょう。乗り物好きならぜひ一度体験してみたい気持ちになるのが、陸上モーターボートの不思議な魅力です。

陸上モーターボート
本物の水のようである

ドラえもんカラー2巻「陸上ボート」P148:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

速度について考えると、本物のモーターボートは時速数十キロから場合によっては百キロ超のスピードが出ます。陸上モーターボートがどれほどのスピードを出せるのかは明示されていませんが、コミックの描写では相当な速さで走り回っている様子が見てとれます。住宅街や公園の中でそのスピードを出されると周囲への影響は計り知れず、安全運転の概念が必要になってきます。のびたやジャイアンに安全運転の意識があるかどうかは……もう言わなくてもわかるでしょう。道具を使うのびたたちのマイペースぶりと、それに巻き込まれる周囲のリアクションのギャップが笑いを生んでいるのが、このエピソードの魅力のひとつです。

陸上ボートシリーズは三種類

陸上ボートシリーズには手漕ぎの陸上ボート、動力付きの陸上モーターボート、そして地中を進む陸上せん水かんの三種類が登場します。それぞれ用途が異なり、のんびり楽しみたい場合は手漕ぎの陸上ボート、素早く移動したい場合は陸上モーターボート、相手に気づかれずに近づきたい場合は陸上せん水かんと使い分けられます。三種類を合わせて持っておけば、陸上での乗り物移動はひとまず完璧にカバーできるはずです。もっとも、三台も走り回られたら近所の迷惑もかなりのものになりますが。エピソードを読み返してみると、この三段階の道具のエスカレートが一本の話の中にまとめられており、それぞれの道具が役割分担しながら物語の展開を作り出していることに気づきます。ひみつ道具がひとつの物語の中で複数登場し、それぞれが有機的に絡み合う構成は、藤子F不二雄先生の道具設計のうまさを感じさせます。

移動系のひみつ道具という括りで考えると、タケコプター空とぶじゅうたんが空中を、モモボートが水上を得意とするなかで、陸上モーターボートは地上を高速移動するという独自のポジションを持っています。快速シューズスピードぐつのように自分の足で走るわけではなく、乗り物として地面を進む点がポイントです。重い荷物を積んで移動したり、複数人で乗り合わせたりするのには乗り物タイプのほうが向いていますから、陸上モーターボートにも荷物運搬や短距離移動の場面での活躍を期待できます。乗り物系ひみつ道具のなかでも、地面を走るという特性の独自性は際立っています。

水辺がなくてもモーターボートが楽しめる

現実世界での応用可能性について考えると、水辺のない地域でモーターボートの操縦練習ができるという点は非常に魅力的です。海や湖でいきなりモーターボートを操縦するには相当の技術と経験が必要ですが、陸上で同じ感覚で練習を積めるなら上達のスピードが変わってくるでしょう。操船の感覚、舵の切り方、加速や減速のタイミングといった基礎技術を安全な陸上環境で身につけておけるなら、水上での初操縦がぐっとスムーズになるはずです。陸上ならではの安心感がある分、初心者でも思い切って操縦の練習ができるというメリットもあります。水上スポーツの裾野を広げる道具として、陸上モーターボートは意外なほど実用的な存在かもしれません。

陸上モーターボート
ぶつかれば大変なことになる

ドラえもんカラー2巻「陸上ボート」P148:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

もちろん、実際の水面と地面では摩擦や抵抗が異なりますし、波の影響なども陸上では再現できません。しかし基本的なボート操縦の感覚を体で覚えるという目的なら、陸上モーターボートは十分な訓練効果を発揮できるでしょう。レジャーとしての楽しみ方も幅広く想像できます。広い空き地や公園での陸上モーターボートレースは、見ているだけでも相当に面白そうです。水上レースと違って転覆しても溺れる心配がないので、ドンブラ粉のような予期せぬ浮力の事故とも無縁です。安全面のメリットはアクティビティとして普及させるうえでも重要な要素になるでしょう。

また、地面を走るモーターボートという発想自体が非常にユニークで、乗り物としての新鮮さがあります。モーターたらいのような水上を滑る道具とは異なり、陸上モーターボートは完全に地面に適応した乗り物です。地形を選ばず使えるという汎用性も、ひみつ道具としての評価を高めています。平地であれば公園でも校庭でも走れますし、未舗装の野原でも問題なく動くなら冒険的な使い方もできそうです。観光地での体験型アクティビティや、イベント会場での乗り物展示としても注目を集めそうな道具です。地面の上を滑走するモーターボートは、それを見た人が一度は乗ってみたいと思わせる引きつける力を持っています。

欲張りが招いた結末

のびたがさらなる道具を要求するパターンは、ドラえもんのエピソードでよく見られる展開です。最初の道具で満足せずにグレードアップを求め、それが新たなトラブルを生む流れは、欲張ることへの警鐘として読むこともできます。陸上モーターボートのエピソードでも、モーターボートを手に入れたのびたがジャイアンとスネ夫に横取りされ、最終的にドラえもんが陸上せん水かんで追撃するという展開になります。欲が欲を呼ぶ連鎖の先に待っているのは、いつも予想外の結末です。それでも読み終えたあとに残る後味は不思議とスッキリしていて、登場人物全員がどこか憎めないのがドラえもんの世界の魅力でもあります。陸上モーターボートはそうした物語の流れの中で、道具の面白さと人間の欲深さを同時に見せてくれる一台といえます。

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