瓶入りの茶色く丸い錠剤『ソーナルじょう』。効能は約30分ほどで、頭の中で考えた事柄を現実のものとして体験することができます。
ただし、実際(というか現時点での科学技術の水準における)のバーチャルリアリティ(VR)とは異なり、あくまでも本人の考えや意図、妄想を実体験してしまう危険性もあるので、使い方には十分注意したいひみつ道具です。
ずる賢いスネ夫の賭け
スネ夫、ジャイアンらにプールに誘われるのび太でしたが、カナヅチののび太はお誘いを断ってしまいます。
実はこの時、のび太のカナヅチを知っていたスネ夫がジャイアンに対し、「のび太をプールに誘って断るほうに10円」という賭けを持ちかけていたんです。
ドラえもん3巻「ソーナルじょう」P135:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ジャイアンから金銭を巻き上げた後、予めのび太のカナヅチを知っていた事がバレてしまい、騒動に発展するヒト場面も。
部屋で泳ぎの練習を、しかも畳の上で想像の中で練習をしているのび太を見かねたドラえもんが出したひみつ道具が「ソーナルじょう」です。
精神状態に左右されるソーナルじょう
泳ぎのトレーニングのために、まずは一錠の服用を勧めます。
そしてのび太の部屋がプールであることをイメージする様にドラえもんが促したところ、早速に仮想現実の世界で溺れ始めるのび太。
すぐに幼稚園のプールをイメージするよう修正指示を出したものの、今度は幼稚園の先生につまみ出されるイメージが働き、プールの外へ出されてしまいます。
何とか安定したイメージを働かせ、浮き輪を付けて仮想現実の海を泳ぎ始める事に成功しますが、のび太の不安定な精神状態により、渦潮に巻き込まれたり、鮫(野良犬)に襲われたりと、奇想天外なアクシデントに繰り返し襲われることになります。
ドラえもん3巻「ソーナルじょう」P145:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
効能の継続時間が30分と短いため、幾度となく発生する危機を偶然回避する事も稀にありますが、しずかちゃんやドラえもんの服用時の安定性と裏腹に、のび太の不安定な精神性が物語を面白い展開としていきます。
VRとは違った仮想現実
冒頭でも触れましたが、我々の科学技術革新により発展している、いわゆるバーチャルリアリティ(仮想現実)とは、根本的な思想が異なります。
バーチャルリアリティでは、ヘッドマウントディスプレイなどを活用して仮想現実を体験しますが、それはあくまでも製作者の意図をベースにあたかも自身の体験のように擬似的に経験をさせるものです。
ソーナルじょうでは、自身の頭に思い浮かんだ事柄が、それを好きか嫌いかは関係なく表れてしまい、まるでマイワールドの如く展開されます。
誰しもが集中力の強弱、雑念、心配事など、まるっとまとめていうところの“煩悩”から解き放たれてはおらず、心のあり方の強弱はあるとはいえ、服用中に様々な思いが頭をかすめた時、ソーナルじょうの決定的なデメリットに翻弄されることになるのではと思います。
使い方には十分注意したい
効能の継続時間があることで、その間の空想の世界を楽しむことができる反面、30分間はソーナルじょうにより、心の中から表出される雑念や心配事が外界に展開され、自身を責めることもリスクとしてよく認識した上で服用を勧めます。
はじめのうちは楽しく使っていたとしても、心の中で心配事や不安なことがあると、ついそれを頭に思い浮かべた瞬間に仮想世界が一変し、たちまち事態はおかしくなってしまいます。
仮装現実を越えた「準現実」の世界において、ソーナルじょうを使いこなすためには優れた精神コントロール力が必要です。
様々な経験を経て大きく成長している大人が使うより、純粋無垢な小さな子どもが使うことで、限りなくリスクを抑え、かつ最高の体験ができるのかもしれません。