出入りかがみは、鏡を使うと左右あべこべの鏡の世界に入ることができるひみつ道具です。鏡の中の世界は現実と瓜二つの空間が広がっていますが、鏡の中での出来事が現実世界にも影響するという特性を持っており、他の鏡系道具とは一線を画す重要な違いがあります。
新しい遊び場は鏡の世界
空き地で遊びたかったのにジャイアンたちが野球をやっているせいで使うことができません。ドラえもんの物語では何度も登場するこの状況ですが、のびたたちにとって空き地は絶好の遊び場であると同時に、いつジャイアンに占領されるかわからない不安定な場所でもあります。ドラえもんは出入りかがみで鏡の世界を用意し、遊び場は無事確保されました。
鏡のサイズに収まるものでないと通り抜けできない 出典:ドラえもんカラー2巻「出入りかがみ」P107:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
鏡の世界の出来事が現実世界にも反映されるのですが、ボール遊び中に誤って家のガラスを割ってしまい、現実世界のジャイアンたちが犯人扱いされてしまったのでした。自分たちは鏡の世界で遊んでいたのに、鏡の世界でのガラス割りが現実の割れにつながるというのは、この道具の最も重要な特性を示すエピソードです。遊び場を確保したと思ったら、思わぬ形で問題が起きてしまうのがドラえもんらしい展開です。
無限に広がる世界
出入りかがみを使うと左右あべこべの世界に入ることができます。生物はいませんが、家や建物、道路は現実世界そっくりのものが広がっています。自由に使える遊び場が手に入ったと考えるといいですね。人がいない世界ということは、誰にも気を遣わずに行動できるという点で非常に自由度が高い空間です。
鏡の世界での出来事が現実世界に影響するという点が、入りこみ鏡など他の鏡の世界に入る道具との大きな違いです。入りこみ鏡はあくまでも別の空間として完結していますが、出入りかがみはリンクしているのです。この双方向の連動性は、使い方によっては非常に便利にも、非常に危険にもなり得ます。
左右が反転しているという点も面白い特性です。鏡の世界では文字が逆に見えたり、利き手が逆になったりと、微妙な違いが生まれます。慣れない環境での活動は、普段使わない脳の部分を刺激するトレーニングになるかもしれません。左利きの練習として鏡の世界で過ごすという活用法も考えられます。スポーツ選手が左右両方の動きを鍛えるために活用する、という実用的な使い方もできそうです。また、鏡の世界には生き物がいないという特性を活かせば、動物実験や人体実験が必要な研究を鏡の世界で先に試すという発想もできます。現実世界に影響が出るという性質から、実験結果が現実に反映されてしまうというリスクもありますが、逆にそれを利用することで「鏡の世界での仮説検証→現実世界への反映確認」というプロセスを研究に組み込める可能性もあります。
他の鏡の世界と違う場所
実はドラえもんには鏡の中の世界に入るひみつ道具がいくつか存在します。
今回登場した出入りかがみが他と異なるのは、鏡の世界で物を動かしたり壊すと現実世界にも影響が出る点でしょう。
他の道具とは違う 出典:ドラえもんカラー2巻「出入りかがみ」P108:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
例えば大長編「のびたと鉄人兵団」では鏡の中の地球に敵ロボット軍をおびき寄せて戦闘が繰り広げられました。これは現実の地球に影響が出ないようあえて鏡の世界を選んだのですが、もし出入りかがみを使っていたら地球はめちゃくちゃになっていたでしょう。映画の中で使われた鏡の世界はいわば安全な戦場として機能しましたが、出入りかがみではそうはいきません。道具の性質の違いが物語の展開に大きく影響するという点で、ドラえもんの道具設定の細やかさを感じます。
この特性を逆手に取ると、鏡の世界で特定の場所や物を修復したり構築したりすることで現実世界を変える、という使い方もあり得ます。危険な場所での作業を鏡の世界で先に試してから現実に反映させるという発想は、もしもボックスでシミュレーションするのとはまた違う実用的な応用法といえるでしょう。鏡の世界での改造が現実に反映されるとすれば、建築や土木工事の事前テストとして使える可能性があります。また、現実では危険すぎて試せないような実験も、鏡の世界であれば安全に行える可能性があります。
鏡を割らないよう注意が必要
現実世界と鏡の世界をつなぐ唯一の道は出入りかがみのみです。これが割れてしまうと行き来できなくなってしまうので注意が必要です。鏡は衝撃に弱い素材で、特に鏡の世界の中で激しく遊んだり活動していると、振動や衝撃が鏡に伝わって割れてしまうリスクがあります。
いつぞやの時のようにスモールライトを上手に使うことで脱出することは一応可能かと思われますが、心臓によくないですよね…(詳細は入りこみ鏡を参照)鏡が割れた場合の脱出方法をあらかじめ考えておくのは、安全のためにも重要なことです。鏡の世界に入る前には必ず保護ケースに入れるなど、鏡を守る手段を講じておきたいところです。
出入りかがみで鏡の世界に入っている間はどこでもドアや通りぬけフープといった移動系の道具があれば鏡の世界内をより広範囲に探索できますし、かくれマントで身を隠しながら調査する用途にも活用できそうです。現実世界と連動するという特性を活かした使い方を工夫すれば、さまざまな場面で応用できる奥深い道具です。鏡の世界を工事現場や実験場として活用し、現実世界への影響を確認しながら作業を進めるというプロフェッショナルな使い方も、未来の世界では確立されているかもしれません。出入りかがみは遊び道具としてだけでなく、現実改変のための実験空間として非常に高い可能性を秘めた道具です。
もし現実にあったら
出入りかがみが現実世界に存在したとしたら、まず建築や都市計画の分野で革命が起きるでしょう。新しい建物を建てる前に、鏡の世界で同じ設計の建物を作って強度テストや使い勝手の検証をする、という使い方が実現します。現実世界に反映されるという性質から、鏡の世界での建設作業がそのまま現実の建物を作ることになるわけです。これは建設コストの大幅な削減につながります。また、外科手術の訓練にも使えるかもしれません。鏡の世界の人体モデルに対して手術の練習をすることで、現実の患者への影響なしにスキルを磨けます。もちろん鏡の世界の出来事が現実に影響するという特性上、慎重な使い方が求められますが、可能性の大きさは計り知れません。ゲームやエンターテインメントの分野でも革命が起きそうです。鏡の世界を舞台にした本格的なリアルスケープゲームや、鏡の世界で行われたスポーツ競技の結果が現実にも反映されるという連動型のエンターテインメントなど、従来の発想を超えた体験が生まれるでしょう。左右が反転した世界での競技は、普段とは違う感覚が求められるため、脳への刺激という意味でも健康効果が期待できるかもしれません。出入りかがみは遊び道具としての顔と、実用ツールとしての顔を持つ二面性がある道具です。使い方ひとつで子どもの遊び場にも、産業革命のキーデバイスにもなり得る可能性を持っており、ドラえもんのひみつ道具の中でも特に応用範囲の広い道具のひとつといえるでしょう。鏡というシンプルな日用品が次元を超えた扉になるという発想の転換は、藤子F不二雄先生の想像力の豊かさを改めて感じさせてくれます。鏡を眺めるたびに「この向こうに別の世界があるかもしれない」と想像できるようになる、そんな夢を与えてくれる道具です。




